「自分をあきらめない」〜あなたの健康を守るのは自分自身〜
「乳がんが分かって、もっと早く来ていればと思いました。」
診察室で、こうした言葉を聞くことがあります。
確かに、もっと早く検診を受けていたら…と思う気持ちは自然なこと。でも、大切なのは 「何かおかしい」と気づいて、行動したこと」 です。
医療者として、私は患者さんに寄り添うことを大切にしています。
でも、それだけでは足りません。
最終的にご自身の健康を守れるのは、自分自身の行動 だからです。
だからこそ、私は「検診を受けてください」とただ勧めるのではなく、患者さんが納得して「受けよう」と思えるように伝えたいのです。
健康は「受け身」ではなく「自分で守るもの」
乳がんは、検診の合間にも発生することがあります。
だからこそ、定期的な検診だけでなく、日頃から自分の体に意識を向けること も重要です。
- 「いつもと違う」と感じたら、迷わず受診する
- 毎年の検診を習慣にする
- 家族や友人にも検診の大切さを伝える
「乳がんは家族に多いから、私も気をつけなきゃ」
「お母さん、検診受けてる?」
「毎年この時期に受けるようにしよう」
こんな小さな意識の積み重ねが、未来の健康を守ることにつながります。
医療者の役割は「寄り添う」だけではない
患者さんが自分の健康を守るためには、正しい知識を持ち、必要な検査を受ける判断ができること が大切です。そのために、医療者には次のような役割があります。
- どんな点に注意すべきかを伝える
例:「石灰化が増えていないか、経過を見ていきましょう」 - 患者さん自身のリスクを理解してもらう
例:「おばさんが乳がんだったんですね。では、あなたも少し注意が必要です」 - 必要な検査の意義をしっかり説明する
例:「この検査を追加すると、見逃しのリスクを減らせます」
私は、患者さんに「検診を受けなきゃ」と義務感で来てもらうのではなく、「自分のために受けよう」と納得してもらいたいと思っています。私たち医療を提供するものができるのは、情報を伝え、サポートすること。でも、最後に行動するのはあなた自身 です。
治療や経過観察も「自分ごと」として向き合うことが大切
検診だけでなく、乳がんの治療や経過観察の過程でも、私は、「寄り添うこと」だけではなく「自分で健康を守ることへ意識をシフトしてもらうこと」を大切にしています。
診断を受けたばかりのときや治療中は、医師や医療スタッフが患者さんの不安に寄り添い、治療のサポートをすることが重要です。ですが、治療が進むにつれて、ご自身の気づきや「自分でやっていこう」という意識が、より大切になっていきます。
例えば、
- 治療の選択
治療法にはいくつかの選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。最終的にどの治療を選ぶかは、「医師にお任せする」だけでなく、自分の価値観やライフスタイルと向き合い、納得して決めること が大切です。 - 経過観察中のセルフケア
乳がんの治療が落ち着いてからも、再発リスクの管理や体調を整えるために、運動・食事・睡眠などのセルフケアを自分で継続すること が重要になります。特に体重を管理し、運動を行い活動的に過ごすことは、乳がんの再発予防にもつながることがわかっています。 - 副作用の対処
ホルモン治療などの副作用には、ご自身でできる対処法 も多くあります。例えば、関節痛がある場合は適度な運動やストレッチが有効だったり、更年期症状がつらいときは食事や生活習慣の工夫で和らげることができることもあります。 - 後遺症への対処
自分の体調や身体の変化に目を向けることはとても重要です。術後の傷の状態を見るのは怖いかもしれませんが、状態を観察し、保湿などスキンケアを行うことを習慣にすると、肌のトラブルの予防になります。体に触れることは、自分を労わるだけでなく、痛みのコントロールや、リンパ浮腫の発症に早く気付くことにつながります。
「自分をあきらめない」~自分が主治医になる意識を持つ~
病院では、手術や抗がん剤治療といった大きな治療が中心ですが、クリニックは患者さんの生活により近い場所 です。
病院に通院しているといろいろな職種の人が関わり、フルサポートで至れり尽くせり、だったかもしれません。しかし、ホルモン治療や経過観察だけになったら、通院回数も減り、医療との関わりも薄くなってきます。
だからこそ、クリニックでは、治療が一段落した後も、ただ「寄り添う」だけではなく、ご自身が「気づいて」「自分でやっていこう」と思えるサポートをすることが大切 だと考えています。
乳がんになったとしても、人生は続いていきますから、いろいろなことが起こります。人生を歩む中で、これからも選択する場面は多くあると思います。 乳がんとの旅は長くなりますので、「自分が主治医になる」「自分の体の責任を持つ」という意識がより必要になっていきます。
「運動が大事とわかっているけれど、なかなかできない」
「副作用がつらいけど、どうしたらいいかわからない」
私たちは、そういった声に対して、「これをやってみましょう!」と提案し、一緒に考え、実践しやすい形でサポートしていきます。でも、最終的に行動するのは患者さんご自身 です。
健康を守るための行動は、最初は「やらなきゃ」と義務感から始まるかもしれません。でも、それを続けていくうちに、「やってよかった」と思える瞬間がきっと来るはずです。それが、その行動をさらに継続するモチベーションにつながります。
「自分をあきらめない」—— ある患者さんがそう話してくださいました。
乳がんを罹患された方ですが、ホルモン治療の影響で、気を抜くとすぐに体重が増えてしまう。それでも、「運動を続けるのは大変だけれど、自分のためだし、自分をあきらめることはできない」とおっしゃっていました。
治療は長く続きます。特に乳がんは若い世代が多いので、同じ年代で同じ状況の仲間が少ない中で、モチベーションを維持するのはきっと大変なこと。それでも、「自分をあきらめない」という言葉にたどり着かれたことが、とても素敵だなと思いました。
「あのとき行動してよかった」と思えるように
「もっと早く来ていれば…」「あの時ああしておけばよかった」と後悔することのないように。
定期的な検査を受けるだけではなく、何か気になったら、迷わず受診してください。
そして、治療や経過観察の中でも、「寄り添われるだけ」ではなく「自分でできることを増やしていく」意識を持つことが大切です。
あなたの健康を守る主治医は、あなた自身です。そして、あなたの直感は、あなた自身を守る力になります。 「何か変だな」と思ったら、それを大切にしてください。
私たちはいつでも、その気持ちを支えられる存在でありたいと思っています。
何かあればいつでもご相談にきてください。