乳がんホルモン療法の悩み②脱毛や薄毛への対処

前回は、ホルモン療法による髪の変化が、決して「小さな副作用」ではなく、治療の継続や生活の質に深く関わる問題であることをお伝えしました。
今回は、なぜホルモン療法で髪が変わるのか、どんな対処法があるかについて、説明したいと思います。
専門的な話も出てきますが、「自分の体で何が起きているか」が理解できれば、きっと考え方が変わると思います。
少し長いのですが、、、斜め読みでもよいので読んでいただければと思います。
髪はどこで、どうやって作られているの?
私たちの髪は、頭皮の中にある毛包(もうほう)という小さな器官で作られています。
毛包の中には
- 髪を作る細胞(毛母細胞)
- 髪を育てる血管
- 髪に指令を出すホルモンの受け皿
といった構造があり、毛母細胞で細胞分裂が繰り返され、髪は少しずつ伸びていきます。1ヶ月で約1cm前後伸びるのが平均的な成長速度と言われています。
この毛包は、実はとてもホルモンの影響を受けやすい組織。
とくに女性ホルモン(エストロゲン)は、髪の成長期を保ち、太く、長く、抜けにくい髪を維持する役割を担っています。また、頭皮の血流・保湿にもかかわっています。
髪の毛の周期(ヘアサイクル)
髪には「生え変わりの周期」があります。 生えて → 伸びて → 休んで → 抜けるというサイクルを繰り返しています。
髪はずっと伸び続けているわけではありません。 役目を終えた髪が抜けるのも正常なことなのです。
① 成長期(せいちょうき)
- 髪が太く、長く伸びる時期
- 約 2〜6年 続き、健康な状態では 8〜9割の髪 がこの段階 👉 髪を作る主役の時期
② 退行期(たいこうき)
- 成長が止まる準備期間、約 2〜3週間
- 毛根が少しずつ縮みます 👉 一時的な移行期
③ 休止期(きゅうしき)
- 髪が抜けるのを待つ時期、約 2〜3か月
- 自然に抜けて、新しい髪と入れ替わります
通常は、成長期の髪が 8〜9割、休止期の髪は 1割程度に保たれています。
なぜホルモン療法で抜け毛が増えるの?
乳がんのホルモン療法では、体の中の女性ホルモンの働きを抑えます。
このため、毛包はエストロゲンの保護が受けられなくなり、
- 成長期が短くなる
- 休止期に入る髪が増える
という変化が起きると言われています。
髪が作られ、育つ「成長期」が、通常よりも短くなると、毛包が十分に育たなくなります。 この状態は「毛包のミニチュア化」と呼ばれています。 髪を作る場所である毛包そのものが縮小=”ミニチュア化”すると、小さくなった毛包からは細い毛しか作られなくなります。
また、「休止期」の毛包が増えると、毛が作られなくなっていきます。
こうして、
✔ 抜け毛が増えたように感じる
✔ 髪が細くなったように見える
という変化が少しずつ起こります。
大切なのは、ホルモン療法による脱毛は、毛根が完全にダメージを受ける脱毛ではないという点です。
抗がん剤のように、細胞が一気に傷つくわけではありません。
あくまで、毛包の「働き」が弱くなっている状態なのです。
ホルモン療法による脱毛のパターン
ホルモン療法による脱毛の発症率は報告により差がありますが、10〜30%前後とされます。
多くの方が気にされるのは、
- 分け目が広がってきた
- 前髪が薄くなった
- 頭頂部の地肌が透けて見える
といった変化です。
これは、いわゆる「男性型脱毛(AGA)」とよく似た見た目の変化です。
(頭頂部に目立つ脱毛のパターンで、ご主人の脱毛と似ている、と言われた方もいました。最近は、自由診療のAGAクリニックの広告をよく見かけますね)
では、なぜ女性である乳がん患者さんに、このような脱毛パターンが起こるのでしょうか。
ホルモン療法によって、髪を守ってくれていたエストロゲンの作用が弱くなると、相対的に、もともと体内に存在している男性ホルモンの影響が目立つようになると言われています。
前頭部の毛包はエストロゲン依存性が高く、後頭部の毛包は比較的保たれるため、男性型脱毛と同様の分布になるのではないかと考えられています。
脱毛が始まる時期
- 服用開始後3〜6か月頃から気づくことが多い
- 1年ほどかけて徐々に進行
- 急にごっそり抜けることは稀
髪質の変化
脱毛だけでなく、髪質が変わったと感じる方も多いです。
- 髪が細く・柔らかくなる
- ハリ・コシがなくなる
- うねりが出る
- パサつき・乾燥
- 白髪が増えたと感じる人も
これもエストロゲン低下による毛包機能の変化が関与します。
頭皮の変化
- 乾燥しやすい
- かゆみ
- フケが出やすい
- 皮脂分泌低下
→ スカルプケアの見直しが重要になります。
ホルモン剤による違いは?
使用するホルモン剤によって症状の出方も異なるようです。
たとえば、閉経後の方でよく使われるアロマターゼ阻害剤は最も髪への影響が多いとされています。前〜頭頂部の脱毛、髪が細くなるという症状がよく見られます。
タモキシフェンは、毛包ではエストロゲン作用が完全には遮断されないため、脱毛は起こりえますが、それほど頻度は高くないようです。全体的な髪の量の減少、白髪の増加や髪質の変化が多いそうです。
LH-RHアゴニスト(リュープリンなど)の使用は、エストロゲンを急激に減らすため休止期の脱毛が増え、抜け毛が増えたと感じます。リュープリンに組み合わせる内服のホルモン剤により、脱毛のパターンも変わります。
ホルモン剤による毛包への影響は、抗がん剤とは異なり、不可逆的ではありません。薬を続けながら安定する人もいらっしゃいます。服用終了後、数か月〜1年で回復傾向を示すことが多いようですが、完全に元通りになるかは個人差があるようです。
ホルモン剤による脱毛は、ホルモンの影響で一時的に元気がなくなっている状態。
早めに対処すればこれ以上薄くなるのを防ぐこともできますし、髪のハリ・コシを保つ、見た目の変化を最小限にすることができます。
患者さんの中には、
- 「命に関わらないから我慢します」
- 「贅沢な悩みですよね」
- 「先生に言うほどのことじゃないですよね」
といったことを言われる方もいます。けれども、そんなことはありません。髪の変化は、気分が落ち込む、外出が億劫になる治療を続けるのがつらくなる、といった形で、治療の継続に影響することがあります。
一方、ホルモン剤の変更や中止は治療の効果、再発のリスクと関わります。治療を続けながらできる対処方法もありますので、一人で悩まず、ぜひ相談してください。
対処・ケアのポイント
医学的に考えられる対策としては、まずは皮膚科医との連携です。
脂漏性皮膚炎などの頭皮の炎症・自己免疫性脱毛(円形脱毛症など)の可能性、鉄欠乏・甲状腺機能異常の除外が必要です。
ホルモン剤によるものと思われるときに、保険適用外ですが、ミノキシジル外用を提案される場合もあります。
よくあるご質問:ミノキシジルは安全ですか?
ミノキシジルは、血管拡張作用を通じて毛包周囲の血流を改善するほか、 成長因子の産生や成長期を延長することにより、発毛を促進し、毛包を「元気な状態に保つ」薬です。
ミノキシジルの外用剤はいわゆる自由診療として、男性型脱毛(AGA) や女性の薄毛治療に使われています。
海外では、乳がん治療中のホルモン療法関連脱毛に推奨されています。データは限られていますが、研究ではミノキシジル短期投与(3〜6か月)で改善を認めた患者が80%程度いたそうです。
治療は、保険適用外となります。
基本的には外用剤として使用します。ホルモン作用がなく、全身への吸収も少ないと言われています。
注意点として、初期脱毛(shedding)という現象があり、使用から 4〜8週で、一時的に脱毛がみられます。頭皮のかゆみ、かぶれが出る方もいます。効果には個人差があり、継続しないと効果が保てないという特徴もあります。
AGAをはじめとした脱毛の治療では、毛包が完全に消失する前、ミニチュア化が進行しきる前であれば、成長期を延ばし、毛包の活動を保つ介入が、理論的に有効とされています。明らかなボリューム低下、地肌が透けるくらいまで進んだ状態だと、回復は可能だが時間がかかるということです。
ホルモン剤による脱毛でも、毛包が少しずつ弱っていくため、早めに脱毛のサインに気づき、適切な外用薬やケアを行うことで、進行を抑えたり改善を図る可能性があると考えられています。
抜け毛が増えた、分け目が気になる、髪が細くなったと感じたら、一度皮膚科を受診し、原因がある場合はその治療を優先しましょう。 ミノキシジル外用を検討しても良いですが、乳がん治療中の方は、担当の医師と相談の上使用しましょう。
Endocrine Therapy–Induced Alopecia in Patients With Breast Cancer – PMC
日常のケアや工夫
以下のような、頭皮の炎症・脂漏・乾燥のケアも必要です。 美容師さんと相談して、ヘアスタイルを工夫したり、部分ウィッグをおしゃれの一つに取り入れても良いと思います。
- 洗浄力の強すぎないシャンプー
- 頭皮保湿(アルコールの強い育毛剤は注意)
- 強いブラッシング・牽引を避ける
- 分け目を固定しない
- パーマ・カラーの頻度を下げる
- トップにレイヤーを入れる
- パウダー・スプレー使用
- 部分用のヘアピース
髪を守るために「頭皮ケア」が大切
ホルモン療法中の髪の変化は、髪そのものだけでなく「頭皮環境の変化」も関係しています。
女性ホルモンが減ることで、
- 頭皮が乾燥しやすくなる
- 皮脂が減り、バリア機能が弱くなる
- かゆみ・フケ・赤みが出やすくなる
といったことが起こります。
頭皮は「畑」、髪は「作物」です。
畑の状態が悪いと、良い作物は育ちません。
「抜けるのが怖くて、しっかり洗う」「育毛を期待して刺激の強い製品を使う」
こうした行動が、かえって逆効果になることもあります。
大切なのは、
- やさしく洗う
- うるおいを補う
- 炎症を起こさせない
という3点です。
当院では、ホルモン療法中の頭皮状態を考慮したシャンプー・ローションを取り扱っています。
「何を選べばいいか分からない」「市販品で合わなかった」
という方の選択肢のひとつとしてご紹介しています。サンプルをお渡しできますので、診察の際に、遠慮なくお声がけください。
最後に
前回のブログでお話したようにホルモン剤による脱毛で治療も中断された患者さんもいましたが、一方、ご家族のアドバイスで前向きに治療に臨まれた患者さんもいます。部分ウィッグは高いから、と購入をためらっていたそうですが、ある日、ご主人のススメで、部分ウィッグを買われたそうです。出かけるのが億劫にならなくなったと喜ばれていました。
これらの経験は、私の診療への姿勢をあらためて見つめなおすことになりました。
今振り返ると、「気になる」と言われた時点で、もっとできることがありました。
- 早めに頭皮の状態を確認する
- 頭皮ケアの重要性を伝える
- 必要に応じて皮膚科と連携する
- 「我慢しなくていい」と伝える
- 自分の言葉にして話してもらう
最終的に治療する・しないを決めるのは患者さん
大切なのは、
- 髪の変化がどれくらいつらいか
- 生活への影響がどれくらいあるか
- 何を優先したいか
を、患者さん自身が言葉にできることだと思っています。
その上で、医学的にできること・できないこと、期待できることや限界を正直に共有する。
それが、治療の継続とQOLを両立させる医療だと考えています。
大学病院や大規模施設では、ガイドライン、統計、標準化 が優先されがちです。それは、多くの患者さんに対応し、高度な治療も行っているからこそ。安全や質の維持も重要です。
一方、クリニックでの診療では、日常生活に密着した悩み、言いづらい不安、継続を妨げるちいさなこと を拾うことを大切にしています。
ホルモン療法のお薬は、再発を防ぐためにとても大切な治療です。
副作用のひとつとして、髪が細くなったり、抜け毛が少し増える方もいます。
髪の変化は、毎日目にしますし、 不安になりますよね。 見た目の変化は、自分らしさに直結するもの、誰にも相談しづらいもの です。
もしも髪の変化に気づかれたら、我慢しなくてよいので、ぜひ教えてください。
ずっとこのままでは?と心配される方は多いですが、 ホルモンの影響で、髪の成長が少しお休みしている状態です。毛根自体は残っていますので、回復する力は残っています。
対策はいくつかありますので、ホルモン治療をやめる前に、続けられる方法を一緒に考えましょう。
脱毛を話題にすることは、治療を続けながら、日常を自分らしく過ごす力を守ることにつながります。
もし今、
- 抜け毛が気になっている
- 髪の変化がつらい
- 誰にも言えずに我慢している
そんな方がいらしたら、どうか遠慮なくご相談ください。
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