プレコンセプションケアと乳がん
プレコンセプションケアをご存知ですか?
プレ(pre)は「〜の前の」、コンセプション(conception)は「受精・懐妊」で、プレコンセプションケア (Preconception care) は「妊娠前の健康管理」という意味。WHOは2012年に「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しています。
妊娠・出産の仕組み、妊娠によって女性の身体に起こる変化、望まない妊娠を避けるための方法、病気を予防したり早期に発見するための予防接種・健康診断、生活習慣などについて、より多くの方が知り、実践できるような体制づくりが進められています。
プレコンセプションケアは、将来の妊娠を考える女性やカップルだけでなく、すべての女性にとって大切なケアです。 お子さんを望む人には、将来の健やかな妊娠・出産につながり、次の世代の子どもたちの健康も守ります。お子さんを望まない方も、プレコンセプションケアについて知ることで、自分の生活や健康に向き合う機会となります。人生設計を意識し、 健康な生活習慣を身につければ、健康を維持できる人が増え、それぞれがより満足のいく生活を送ることが出来るかもしれません。
妊娠・授乳期と乳がん
乳がんは、30代後半から40代以上で罹患する方が増えますが、20代でも乳がんになる方がいますので、 プレコンセプションケアにおいて、乳がんの啓蒙はとても重要です。
女性であれば、年齢にかかわらず、自分の乳房の状態を知り気にかけること、月経の周期や妊娠・授乳・閉経などによって乳房に起こりうる変化を知ること、どのような症状があれば病院を受診すべきかを知ること、乳がんのリスクを知り、自分のリスクに応じて定期的な乳がん検診を受けていただくこと、が大切です。
妊娠・授乳期の乳がんは稀ですが、出産年齢の高齢化により近年は増加してきています。 一般的には35歳以上の妊婦が初めて出産することを高齢出産としていますが、最近では3〜4人に一人は高齢出産と言われ、40代での出産も増えています。 女性の社会進出とライフスタイルが変化したことにより、出産年齢は年々高くなり、ちょうど乳がんのリスクが高まる年齢と重なるのです。
妊娠、授乳中の乳がんの診断は遅れることが時にあります。それは、 40歳以下の女性や、妊娠・授乳中の女性に対して、乳がん検診が一般的ではないからかもしれません。また、女性自身や医療関係者が乳房に起こっている変化を、妊娠・授乳によるものと考えてしまい、詳しく検査を行う必要がないと判断してしまうことがあるからかもしれません。
また、妊娠・授乳期は乳腺が発達していて、症状に気づきにくかったり、検査の手段が限られてしまうことがあります。しかし、 超音波検査や生検は妊娠のどの時期でも安全に行うことができます。 マンモグラフィは必要であればお腹を保護して撮影できます。
妊娠期に乳がんになった方が、妊娠を継続しても、がんが進んでしまうことはありません。治療に関しては、妊娠の時期により胎児に影響を与えるものもありますので注意して行います。妊娠期の乳がんは、早期であれば、妊娠と関連のない乳がんとそれほど遜色のない成績であるとの報告もあります。
私自身、妊娠・授乳期の乳がんの治療の経験があります。この時期においては、母親でもある女性の命だけでなく、生まれてくるお子さんの命も関わります。治療が難しいときもありますが、できるだけ早い段階で乳がんを診断できれば、対処が可能なことが多いので、やはり早期発見がカギだと思います。
プレコンセプションケアでの当院の役割
実は、当院の初診の方の7割は、20代から40代。妊娠可能な年齢の女性が大半です。診療をしていても、妊娠・授乳中の方や、妊活中の方がよくいらっしゃいます。 一方で、不妊治療をしていたり、妊娠や授乳のために乳がん検診を受けるタイミングを逃す、産後は子供のことを優先し久しぶりに乳がん検診を受ける、という方のお話もよく聞きます。
クリニックということで、お子さんや10代の女の子も来院されます。成長に伴う正常の範囲内の乳房の変化を不安に感じていたり、月経に関連した症状に悩む方も多いことを感じます。
乳房はプライベートなパーツですし、大きな病院にはかかりにくいかもしれませんが、クリニックなら、という方も多いと思います。一人で悩んで不安にならないで、気軽にご相談いただければと思います。
参考としたサイト
1)プレコンセプションケアセンター | 国立成育医療研究センター (ncchd.go.jp)
プレコンセプションケア|未来のあなたと赤ちゃんを今日からサポート (preconceptioncare.jp)
2)Q62.妊娠中に乳がんと診断されました。治療や妊娠・出産はどのようになりますか。 | ガイドライン | 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版 (xsrv.jp)
3)BQ18 妊娠期・授乳期の乳癌は予後が不良か? | 疫学・予防 | 乳癌診療ガイドライン2022年版 (xsrv.jp)