もしもの時にどうするか、一緒に考えてみませんか?|ACPと在宅医療の話
患者さんの生活をどう支えるか
先日、芦屋・神戸市東灘区を中心に在宅医療を行っている先生が、クリニックにご挨拶に来てくださいました。
乳がんの患者さんについて、診診連携ができないかというお話でした。
お話を伺いながら、私自身もあらためて考える機会になりました。
乳がん患者さんにとって、在宅医療やACPが必要になるのは、どのようなとき?
乳がん患者さんの「治療」と「生活」を、地域でどうつないでいけばよいのか?
地域で乳がん診療を支えることについて、今回は考えてみます。
乳がん患者さんは、一人ひとり経過が違います
「乳がん」と一言で言っても、その経過は患者さんによって大きく異なります。
実は、ホルモン受容体陽性、HER2陽性、トリプルネガティブなど、乳がんにはさまざまなタイプがあります。
病期(ステージ)や病理学的な特徴、患者さんの年齢、体力、生活背景によっても治療は変わります。
手術の前後に行う薬物療法や放射線治療も、すべての患者さんが同じ治療を受けるわけではありません。
20代、30代の若い患者さんもいれば、80代、90代の患者さんもいます。
仕事、子育て、介護、家族との生活。
患者さんが置かれている環境もさまざまです。
つまり、
乳がん患者さんを一括りにはできない。
それが乳がん診療の大きな特徴の一つです。
進行・再発乳がんの経過も様々です
「がんの再発」という言葉を聞くと、とても深刻なイメージを持たれると思います。
もちろん、再発は大きな出来事です。
しかし、再発したからといって、治療がないわけではありません。
乳がんでは、再発した後も、乳がんの性質や再発した場所、これまでの治療などに応じて、さまざまな治療が選択できます。
そして、その治療がよく効いて、病気の進行を何年も、長期間抑えながら生活している患者さんもいます。
治療を受けながら仕事を続ける。
家族と過ごす。
旅行に行く。
趣味を楽しむ。
普通の日常生活を送る。
そんな患者さん、私はたくさん知っています。
ですから、
再発→治療に専念するために病院に入院、あるいは症状緩和のためにホスピスへ
ではありません。
再発後も治療を続けながら、症状を緩和しながら、病院の外来に通って日常を送っている患者さんがたくさんいます。
乳がん治療は、ますます専門化している
一方で、これからの乳がん診療では、再発・進行乳がんの治療を地域の小さなクリニックで完結することは、むしろ難しくなってきていると私は感じています。
がん医療ではいわゆるゲノム医療が進み、患者さんの腫瘍の遺伝子の変化を調べ、その特徴に応じて治療を選択する機会が増えています。
使用する薬物治療の選択肢も増えています。
治療の組み合わせも複雑になり、それぞれの薬剤に特徴的な副作用があります。
その副作用を早期に発見し、適切にマネジメントすることも重要です。
一人の乳腺専門医が、一人で診察を行うクリニックですべてを担うには、限界があります。
もちろん、乳腺クリニックが再発患者さんの治療に関わることには意味があります。
しかし、再発・進行乳がんの診療は、乳腺外科だけで完結するものではありません。
腫瘍内科、放射線治療、病理、遺伝診療、薬剤師、看護師、緩和ケアなど、多くの専門職が関わります。
その意味でも、再発した患者さんの治療は、専門的な医療資源が集まる「病院」が中心になっていくのは自然な流れだと思います。
病院ならすべて解決するのでしょうか
病院での治療にも、もう一つの難しさがあります。
再発・進行乳がんの患者さんは、乳がん患者さん全体から見ると、決して多数ではありません。
つまり、医療の中ではマイノリティです。
一方、病院も決して人手に余裕があるわけではありません。
多くの患者さんを診療しながら、高度で専門的な治療を提供しなければなりません。
再発・進行乳がんの患者さんには、治療そのものだけでなく、
「仕事をどうするか」
「家族にどう伝えるか」
「子どものことをどうするか」
「通院をどう続けるか」
「食事や運動はどうしたらいいか」
「将来、通院できなくなったらどうするか」
といった、生活に関わるさまざまな問題があります。
こうした問題は、必ずしも短い外来診療の中ですべて拾い上げられるとは限りません。
治療の選択肢が増え、患者さんが長く生きられるようになるほど、「治療以外」の支援も重要になってくる。
私はそこに、これからの地域医療の役割があるのではないかと思っています。
乳がんの治療を外来で行うと見えてこない困りごと
現在の乳がん治療は、手術を除けば、外来で行われる治療が非常に多くなっています。
薬物療法も、入院せずに外来で受けられることが増えました。
治療を受けながら自宅に帰り、翌日には仕事や家事に戻る。
これは患者さんにとって大きなメリットです。
一方で、別の問題もあります。
入院している時間が短いからこそ、医療者が患者さんの生活上の困りごとに気づきにくいことがあるのです。
入院していれば、
「家では誰が支えてくれていますか?」
「食事は取れていますか?」
「薬の管理は大丈夫ですか?」
「通院は負担になっていませんか?」
といったことを知る機会があります。
しかし、外来診療では、限られた時間の中で治療の効果や検査結果、副作用を確認することが中心になりがちです。
患者さん自身も、
「先生には治療のことを相談するもの」
と思って、生活上の困りごとを言わずに帰ってしまうことがあります。
ここに、
医療と生活支援の間の空白
が生まれることがあります。
ACPとは?
ここで、ACPという言葉について少し説明したいと思います。
ACPは、
Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)
の略。
日本語では「人生会議」とも呼ばれています。
ACPとは、これからどのように生きたいのか、どのような医療やケアを受けたいのかについて、本人が考え、家族や医療・ケアの専門職と話し合っていくプロセスです。
例えば、
「これからも大切にしたいことは何か」
「どんな生活を続けたいか」
「もし通院が難しくなったら、どうしたいか」
「どこで過ごしたいか」
「誰に支えてほしいか」
「病状が変化した時、どのような医療を希望するか」
などについて考えます。
大切なのは、一度決めたら終わりではないということです。
病気の状態が変われば、気持ちも変わります。
生活環境が変われば、希望も変わります。
その時々で、何度でも話し合っていい。
~ing形、なので現在進行形の予定を前もって立てる。というニュアンスです。
ACPは、病気が進行してしまったときのこと決めておくことにとどまらず、
「これから、どんなふうに生きていきたいかを考えること」
もACPの一部なのではないか、と思っています。
再発したらACP?
では、乳がん患者さんにとって、ACPを考えるのはいつがよいのでしょうか。
私は、
再発して、治療が難しくなってからだけではない
と思っています。
例えば、進行した乳がんに対する治療がよく効いていて、患者さんが元気に生活できている時。
そんな時に、
「もし今後、通院が難しくなったらどうしますか?」
「どんな生活を続けたいですか?」
「治療を続けながら、何を大切にしたいですか?」
と考えておく。
それは「死について話す」ことではありません。
むしろ、
今後の人生をどう過ごしたいのかを考えること
なのではないでしょうか。
そういう意味では、ACPは、再発をしていない段階で、いったん治療が落ち着いた方にとっても大切なことなのかもしれません。
在宅医療は誰のため?
さて、今回お会いした先生が取り組まれている在宅医療というと、
「病気が進行して、もう病院でできる治療がなくなった時に受けるもの」
というイメージを持っている方もいるかもしれません。
でも、在宅医療が必要になる理由は、必ずしも病気の進行だけではありません。
例えば、高齢の乳がん患者さん。
乳がんの治療自体は順調でも、
- 足腰が弱くなった
- 認知機能が低下した
- 一人暮らしになった
- 家族の介護負担が大きい
- 通院そのものが難しくなった
ということがあります。
そのような時に、一時的に訪問看護などの支援が役立つ患者さんがいるかもしれません。
つまり、
「乳がんが進行したから在宅医療」ではなく、患者さんの生活を支えるために、必要な時に在宅医療を利用する。
そんな考え方も大切なのではないかと思います。
病院、乳腺クリニック、在宅医療。それぞれの役割
これからの乳がん診療では、どこか一つの医療機関がすべてを担うのではなく、それぞれの医療機関が得意なところを担い、患者さんをつないでいくことがますます重要になると思います。
病院では、手術、薬物療法、放射線治療、再発・進行乳がんの治療など、高度で専門的な医療を担う。
乳腺クリニックでは、乳腺の専門的な診療、治療後の長期フォロー、再発の早期発見、日常的な相談、病院との橋渡しを担う。
訪問診療や訪問看護では、通院が難しくなった患者さんの生活を支える。
そして必要な時には、それぞれがまた病院とつながる。
その患者さんに、その時に必要な医療が届くようにする。
それが地域医療の役割なのだと思います。
乳がんになった後も、人生は続いていく
乳がんになったからといって、その人の人生が「乳がん」だけになるわけではありません。
仕事があります。
子育てがあります。
家族との生活があります。
旅行も、趣味も、友人との時間もあります。
そして、年齢を重ねれば、乳がんとは別の病気や身体の変化も出てきます。
だから私は、
乳がんを治療することだけではなく、乳がんになった後の人生を支えること
も乳腺診療の大切な役割だと思っています。
再発した患者さんを、ただ「終末期の患者さん」として見るのではなく、
治療を受けながら生きている一人の生活者として見ること。
治療がうまくいっている時にも、これからの生活について考えること。
通院できなくなってからではなく、必要になる前から支援につながること。
そして、病院、乳腺クリニック、訪問診療、訪問看護などが、その時々で力を合わせること。
今回、在宅医療の先生とお話ししたことをきっかけに、そんなことを考えました。
当クリニックは、乳がんを診断して治療につなぐだけではなく、
乳がんになった後も、その人らしい生活を続けていくために、一緒に考えられる場所
でありたいと思っています。
今、何がわかっているのか。
これから何をするのか。
どんな選択肢があるのか。
あなたが不安の中で現在地を見失ったとき、
一緒に地図を広げ、
その人らしい道を考えていく。
そんな存在に。
乳房のことで不安になったときは、
どうか一人で抱え込まず、ご相談ください。
あいかブレストクリニックの特徴
- 乳がん検診から精密検査、術後フォローまで一貫対応
- 日本乳癌学会認定の女性乳腺専門医による診療
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