2026年日本乳癌学会学術総会② 血液で乳がんの再発を予測?最新の血液検査について
先日、京都で行われた日本乳癌学会が開催されました。 今年も新しい薬や手術、放射線治療など多くの発表がありましたが、 個人的に気になったトピックを紹介したいと思います。
まずは、これからの乳がんの治療を大きく変えるかもしれない、最先端の血液検査についてお話しします。
科学の進歩は本当に目覚ましいですが、同時に もどかしい壁も見えてきました。
「MRD」とは?
乳がんの手術を受け、必要な抗がん剤や放射線治療を終え、画像検査でも異常がない。
そのような状態でも、ごく少数のがん細胞が体内に残っていることがあります。
これをMRD(Minimal Residual Disease 微小残存病変)と呼びます。
現在のCTやMRI、PETでも見つけられないほど小さいため、これまでは存在を確認する方法がありませんでした。
ctDNAとは?
がん細胞は壊れると、自分のDNAの断片を血液中へ放出します。
これがctDNAです。
DNAにはその細胞の遺伝情報が含まれていますので、がん細胞にはがん細胞に特徴的な遺伝子の変化が見られます。
最近は遺伝子解析技術が飛躍的に進歩し、このごくわずかなDNAを採血だけで検出できるようになってきました。
画像には写らないほど小さながんの存在「MRD」を、血液から推測できるのです。
「腫瘍マーカー」と何が違うのでしょう?
今までにもCEAやCA15-3などの腫瘍マーカーがありました。
しかし、乳がんでは
- 再発していても正常値のまま
- 良性疾患でも上昇する
- 画像で転移があっても上がらない
ということが珍しくありません。
一方、ctDNAは患者さん自身の乳がんに特徴的な遺伝子変異を直接追跡します。
いわば「がんが残している足跡」を探す検査です。
そのため、理論上は従来の腫瘍マーカーより感度・特異度が高いことが期待されています。
本当に画像より早く見つかるのでしょうか?
従来から再発の発見に行われるCTなどの画像検査は、ある程度がんが大きな塊にならな いと再発が分かりません。 この検査では、画像に写る前の血液の中にある小さなDNAのかけらを見つけます。
現在までの研究では、MRDが陽性になってから、画像検査で再発が確認されるまでに半年から1年程度の時間差があることが報告されています。
これは非常に期待できる結果です。
しかし、ここで大切なのは、
「早く見つけられる」ことと「長生きできる」ことは同じではない
ということです。
もし早く見つけても治療成績が変わらなければ、その検査を全員に行う意味はありません。
現在世界中で、「MRDを使った治療介入が本当に患者さんの予後を改善するか」を検証する大規模試験が続いています。
治療したら、すぐctDNA(MRD)は減るのでしょうか?
意外に思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
抗がん剤や分子標的薬がよく効くと、がん細胞が一気に壊れます。
その結果、一時的にDNAが血液中へ放出され、治療直後にはctDNAがかえって増えることがあります。
手術や放射線治療でも同じような現象が起こる可能性があります。
そのため、MRDは1回だけ採血して判断する検査ではありません。
適切なタイミングで繰り返し測定し、その変化をみることが重要と考えられています。
この「いつ測定するのが最も正確なのか」も、現在活発に研究されているテーマの一つです。
日本では受けられるのでしょうか?
現時点では、乳がんに対するMRD検査は保険診療では実施されていません。
多くは臨床試験や研究として行われています。
保険診療になるためには、
「検査をしたことで患者さんの寿命や再発率が改善した」
という科学的根拠が必要です。
現時点では、その最終的な答えを待っている段階です。
最大の問題点:分かっても対処の術(すべ)がない
実は現場の医師が、今一番頭を悩ませている「大きなカベ」があります。
血液検査で「MRD陽性(再発のサイン)」が出たとしても、いまの日本ではすぐに治療を始められないのです。
1. 治療ルールの壁
「画像には写っていないけれど、血液に反応が出た」という段階で、先に強い抗がん剤などを始めるべきか、その世界的な治療ルール(ガイドライン)がまだ完全に固まっていません。
2. 日本の保険制度の壁
いまの日本のルールでは、再発した時によく使用されるキイトルーダやベージニオといったお薬を使うためには「画像で再発が確認できること」などの厳しい条件があります。血液検査だけを理由に、保険でお薬を出すことができません。 「異常は早く分かったのに、画像に写るまで何もできずに待つしかない」という、医師にとっても患者さんにとっても、とてももどかしい状況が生まれてしまうのです。
技術の進歩に現場のルール・運用が追い付いていないのです。
海外ではどうでしょう?
アメリカやヨーロッパでは、すでにMRD検査を臨床で利用している施設があります。
代表的な検査として「Signatera(シグナテラ)」などがあります。
特に大腸がんでは研究が大きく進み、一部では保険診療でも利用されています。
乳がんでも多くの国際共同試験が進行中で、今後数年間の結果が非常に注目されています。
「そんなにすごい検査なら、病院の手続きや採血が大変そう……」と思いますよね。
実は、先行しているアメリカでは、驚くほどスマートな仕組みができています。
面倒な過去の手術組織(病理ブロック)の取り寄せは、検査会社がすべて代行します。
検査会社のスタッフが患者さんの自宅に直接行き、その場で採血、あるいは、仕事帰りに近くの民間採血センターに立ち寄って受けることもできるそうです。
よくある質問
Q. 採血だけで本当に再発がわかるのですか?
完全ではありません。
再発を画像より早く見つけられる可能性はありますが、100%ではありません。
Q. MRDが陽性だったら、すぐ治療するのですか?
現時点ではそうではありません。
「陽性だった患者さんに追加治療をすると本当に予後が良くなるか」が、まさに現在研究されているテーマです。
Q. 陰性ならもう安心ですか?
安心材料にはなりますが、「絶対に再発しない」という意味ではありません。
ごく少量のがん細胞は検出できない可能性もあるため、通常どおりの診察や経過観察は大切です。
Q. 毎月採血した方が良いのでしょうか?
回数を増やせば良いというものではありません。
治療直後は一時的にctDNAが増えることもあり、適切なタイミングで測定することが重要です。
Q. 画像検査は必要なくなるのでしょうか?
いいえ。
MRDは画像検査の代わりではなく、補完するための検査です。
将来は両者を組み合わせることで、より精度の高い診療ができるようになることが期待されています。
最後に
採血だけで見えない再発リスクを知り、一人ひとりに合わせて治療を調整する——そんな時代が少しずつ近づいています。
一方で、MRD検査はまだ研究段階。
期待が大きいからこそ、私たちは冷静に科学的根拠を見極める必要があります。
いま、私たちができることは...まずはガイドラインに沿った、日々のホルモン療法や定期検査をしっかり行うことだと思います。
また、近隣の専門施設のほか、大学病院やがんセンターといった、最先端のゲノム医療や治験を行っている病院と連携していますので、患者さんにとって機会の喪失につながらないよう、私たちも引き続き新しい知見を勉強していきます。
医療の進歩は本当に早いです。いまある「もどかしい壁」も、これからの数年で必ず壊れ、日本のクリニックでも当たり前にこのような検査ができる時代がやってきます。
最先端の情報を常にキャッチアップしながら、皆様が安心して日々の生活を送れるよう、これからもサポートしてまいります。 気になる検査やニュースを見かけた際は、いつでも診察室でお気軽に声をかけてくださいね。
あいかブレストクリニックの特徴
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