乳がんとヨガ
乳がんを経験すると、心も体も、これまでとは少し違う「私」に出会うことがありませんか?
体のつらさ、気持ちの揺れ、生活のペースの変化…。
そんなとき、ヨガという「静かな時間」が、そっと寄り添ってくれることがあります。
がん治療とヨガ――意外な組み合わせ?
一見すると結びつきにくいかもしれませんが、近年では、がん治療とヨガの効果が科学的にも検証されるようになっています。
乳がんを経験された方にとって、治療後の「生活の質(QOL)」を高めることは、とても大切なテーマです。
ここ数年、世界中で注目されているのが「ヨガ」の力。
ヨガは、単なる運動にとどまらず、心と体の両面に働きかけるサポーティブケア(補完療法)として、多くの医学研究でもその有用性が認められています。
「ヨガは特別な人だけのもの」と思っていませんか?
ヨガというと、難しいポーズや柔軟性が必要なものを思い浮かべるかもしれません。
でも本来のヨガは、「今ここにいる自分」に意識を向け、呼吸と動きのリズムを感じる、とてもシンプルなものです。
とくに乳がん経験者のためのヨガは、「がんばるため」ではなく「ゆるめるため」のもの。
ストイックなトレーニングや身体の限界に挑むものではなく、やさしく穏やかな動きを中心に構成されています。
たとえば――
- 化学療法中や体調がすぐれない時でも取り組める
- 痛みを避けたゆっくりとした動き
- 仰向けや横向きの姿勢、呼吸と簡単なストレッチ中心
- 椅子やタオルを使った補助的な工夫
治療後の体に無理なく寄り添うプログラムが用意されており、リンパ浮腫の予防、肩の可動域の改善、ホルモン治療による関節痛の軽減などが期待できます。
慢性的な痛み…「体の声」に気づく時間
手術や放射線治療の後遺症として、肩や腕、背中に慢性的な痛みを感じている方も多いでしょう。
ヨガは、無理に体を動かすのではなく、「ここがつらい」「ここが硬い」と、体の声に気づくための時間。
痛みを我慢してポーズを取る必要はなく、小さな動きで血流を促し、筋肉の緊張をやわらげることで、痛みが軽くなることもあります。
また、深く静かな呼吸を意識することで、自律神経のバランスが整い、心拍数や血圧も自然に落ち着いてきます。
「眠れない夜」に
治療後に「眠れない」「夜中に何度も目が覚める」と悩む方も少なくありません。
そんなときは、深い呼吸を中心としたヨガのプログラムが、ストレスの軽減や自律神経の安定を促し、不安や睡眠障害の緩和に役立ちます。
夜寝る前に、たった5〜10分、深呼吸と軽いストレッチをするだけで、脳や体はリラックスモードへ。
「がんばって寝よう」と力むのではなく、自分の呼吸を感じる――
それだけで、自然な眠りに近づくことができるのです。
「自分」にやさしくなる
ヨガの時間は、「自分の体や心と対話する時間」にも。
術後のリハビリ中でも、倦怠感が強いときでも、呼吸をゆっくり感じながら体をゆるめることで、「私は大丈夫」と思える瞬間が訪れます。
変化した体を否定せず、ダメ出しをせず。
「そのままでいいよ」「ありがとう」と思えるようになる。
そんな気持ちの変化を、ヨガはそっと手伝ってくれます。
ひとりじゃないと感じられる場に
ヨガは初めて。どこがお勧めですか?という方へ。
一般のヨガクラスに行くのは不安だなという方もいらっしゃると思います。
近年では、乳がん経験者のためのヨガクラスも増えてきました。
そこには、病気を超えた「人と人」としての出会いがあり、「安心して話せる場所」が生まれています。
人間は社会の中で生きてこそ。病院とも、家とも、職場とも違う、別のコミュニティでの対話を通じて、新たな自分の一面に出会えるかもしれません。
> 乳がんヨガのクラスをお探しの方は、BCY Institute Japan がお勧めです!
乳がんとヨガ ~ 心と体のチューニング
「自分が悪かったのでは」「もっと違う選択をしていれば」――
乳がん治療を経験した方の中には、そんなふうに自分を責めてしまう方もいます。
そんな心をふっと緩めてくれるのが、ヨガです。
深く呼吸を意識し、「今の自分」をまるごと受け入れる時間。
それは、心と体をやさしくチューニング(調律)してくれます。
ヨガの語源は「つなぐ」。
病気の自分も、元気だった自分も、どちらも大切な「わたし」です。
今この瞬間を、善悪なく受け止める――
それが、ヨガがくれる、かけがえのない時間です。
ヨガは乳がんを治す薬ではありませんが、自分をまるごと受けとめ
「これでいいんだ」と思える瞬間をもたらしてくれるかも。
人生に、正解はありません。
ヨガを通して、“どんな自分でありたいか”を問い直し、“自分の軸”をととのえ、「私」を生きること。
それは、がんになったからこそ出会える、新しい選択なのかもしれません。
最後に…揺らぐ時代に、「私を生きる」
「VUCA(ブーカ)」という言葉をご存じでしょうか。
変化が激しく(Volatility)、不確実で(Uncertainty)、複雑で(Complexity)、そして曖昧(Ambiguity)――そんな、“先の見えにくい時代”を表す言葉です。
医療も人生も、本当のところは、先が見通せないもの。
それでも、私たちは日々、何かを選び、迷いながらも進んでいます。
乳がん治療も、選択肢が広がった一方で、迷いや葛藤が増えました。
治療が終わったあとも続く体調や気分のゆらぎ、ホルモン療法による不調、ふとした瞬間に押し寄せる不安――
そうしたものと折り合いをつけながら、「これからの自分」と向き合っていく日々が続きます。
乳がんの罹患が増える40代、50代という年代は、もともと心や体の変化が起こりやすい時期です。
仕事では責任が増し、家庭では子育てや介護など複数の役割を担い、「頑張ること」が当たり前になっている方も多いと感じます。
そこに「がん」という出来事が加わると、それまで築いてきた“私”が揺らぐのも、無理はありません。
「乳がんになる前の自分に戻りたい」「ちゃんと治ったのに、なぜか心が追いつかない」。
診察室で、そんな言葉を何度も耳にしてきました。
私も同じ女性として、そして医師として、深くうなずくことばかりです。
でも私は、乳がんを経験された方々の姿から、こんなふうに思うのです。
――変わってしまった体も、何度も押し寄せた不安も、今の“私”をかたちづくっている、大切な一部なのだと。
そして、いつかそのすべてを優しく抱きしめられる日がくるのだと。
「これからの人生を、私はどう生きたいのか」。
その問いを抱えながら、自分に合った治療や暮らしのかたちを模索する姿に、私はいつも胸を打たれます。
患者さんたちのその力強さに、私自身が学ばされることも多いのです。
人は「いつも同じ」のではなく、「変わっていく」もの。
そして、その変化を受け入れ、自分なりのペースで歩んでいく力こそ、本当の意味での「強さ」なのだと思います。
社会も、医療も、そして心のあり方も、「これまで通り」ではいられない今。
けれど、だからこそ――
変わり続ける“私”を、丁寧に見つめ、大切にしていくことが、これからの時代を生き抜く鍵になるのではないでしょうか。
変化の波にのまれそうになる日もあるけれど。
そんな時こそ、どこかにある“自分らしい軸”を信じて、しなやかに歩いていけたら――。
「私を生きる」ということ。
それは、変わらない何かにしがみつくことではなく、
“変わり続ける私”をそのまま受けとめていくことなのかも。
この不安定な時代に、迷いながらも、自分の軸を探し、育てていく。
それは、患者さんだけでなく、私自身にとっても、大切なテーマです。
様々な経験を経て、たどり着く「私だけの生き方」。
ヨガは、そのそばで、静かに灯るあかりのように、
“今の私”をそっと照らしてくれる存在なのかもしれません。
お知らせ
6月29日、乳がんとヨガに関するイベントを開催します。
乳がんという経験を通じて、ただ病気を治すだけでなく、
これからの「私」をどう生きるかを見つめ直したいと願うあなたへ。
そして、揺れる時代の中で、「私」を大切に生きようとしているすべての女性へ――
慌ただしい毎日のなかで、少しだけ立ち止まり、
心と体の声に、そっと耳を傾けてみませんか?
ご興味のある方は、ぜひご参加ください。
あなたにとっての「小さな一歩」となりますように。