妊娠・授乳と乳がん①
妊娠・授乳期の乳がんは乳がん全体で見れば、0.2~3.8%とまれです。
女性の社会進出とライフスタイルの変化により、出産年齢が高くなっています。
最近では3〜4人に一人は高齢出産(35歳以上の初産)と言われ、40代での出産も増えています。
一方、乳がんは30代後半から、かかりやすくなります。女性の出産年齢が上がり、乳がんのリスクが高まる年齢と重なってきています。
乳がんのリスクが高まる年齢での出産が増えていること、乳がん患者数自体も増加していることから、近年は妊娠・授乳期の乳がんは増加していると考えられています。
妊娠、授乳中の乳がんは病状が進んでから診断されることが多い
乳がん検診の対象年齢になっていない
妊娠・授乳期は乳腺が発達していて症状に気づきにくい
症状があっても妊娠・授乳中の変化と考えてしまう…
などの理由から、妊娠・授乳中の乳がんの発見は遅れることが多いとされています。
産婦人科医や助産師とともに、ご自身でも乳房の変化を観察するようにしましょう。
気になるところがあれば気軽に乳腺外科へご相談ください。
授乳中のしこりも、気軽に相談を。
授乳中の乳房のしこりは、必ずしも乳がんとは限りません。
産後すぐ、離乳食の開始、卒乳のときなど、お子さんの成長のタイミングや、お母さんの体調によって起こることがあります。
発熱や乳房の赤み・熱感があるときは乳腺炎かもしれません。
地域の産科や助産院の母乳相談外来のほか、乳腺外科を気軽に受診してください。
妊娠・授乳中の乳がんの検査
妊娠・授乳中でも乳がんの検査はできます。
妊娠中はエコー検査が勧められます。出産直前は乳腺が発達してきますので、妊娠初期~中期に行うことをお勧めしています。必要であれば、お腹に放射線が当たらないようにしてマンモグラフィを撮影することもあります。
授乳中の場合、エコー検査に加えて、必要に応じてマンモグラフィ(乳房X線検査)を行うことができますが、卒乳後をお勧めすることが多いです。検査前に医師に相談しましょう。
生検は妊娠・授乳中でも可能です。
将来妊娠を考えているあなたへ
経口避妊薬(低用量ピル)による乳がんのリスクはごくわずか
経口避妊薬には、乳がんのリスクがわずかに高まる報告がありますが、最近の製剤では含まれるホルモンの量・組み合わせが改善されており、乳がんのリスクは増加しないと考えられています。
経口避妊薬には、避妊や月経困難症の改善など、さまざまな効果があり、女性の生活の質を向上させることが分かっています。これらの利益とのバランスを考えて判断しましょう。
不妊治療によって乳がんのリスクは増加しない
日本では、夫婦のうち5.5組に1組が、不妊治療を経験しているか現在受けていると言われています。海外のデータによると、排卵誘発などの不妊治療によって乳がんのリスクが増加するという情報はありません。
ただし、日本人のデータはまだ存在しないため、確固たる結論は出ていません。
乳がんの治療後…子供を授かりたい
乳がんの治療が終わった後に、妊娠・授乳をしても、再発の危険は上がりません。赤ちゃんへの影響もありません。
しかし、予定される治療が長期間に及ぶと、年齢が高くなることにより自然妊娠が難しくなる場合があります。また、抗がん剤治療によって卵巣の機能が失われ妊娠しづらくなることもあります。
若い乳がん患者さんの 約1/3から1/2が、子供を持ちたいと希望しているそうです。治療を始める前に、妊娠のことについて話し合っておくことはとても重要です。
将来お子さんを希望されている場合、がんの治療前に卵子や受精卵の凍結をしておくことが出来ます。43歳未満で、一定の要件を満たしたがんの患者さんにはその医療費の一部が助成されます。
妊娠・出産と乳がん治療の両立は、世界中で乳がん医療の新しい課題となっています。
例えば、ホルモン受容体陽性の乳がん患者さんに対して現在 5〜10年間の補助内分泌療法(ホルモン療法)が勧められています。術後の内分泌療法は乳がんの再発リスクを減らし、生存率を向上させるとされています。しかし、内分泌療法中の妊娠は禁忌であり、妊娠を5〜10年間延期すると、年齢が上がるごとに、不妊の可能性を増加させることになります。
乳がんの手術後の内分泌療法を、妊娠のために一時的に中断しても害がないかどうか?
この問いに関して、世界的な臨床試験(POSITIVE(ポジティブ)試験)が行われています。
これは、妊娠を希望しているホルモン受容体陽性の早期乳がん患者を対象に、一時的な内分泌治療の中断を行い、妊娠・出産後に治療を再開した場合の有効性と安全性を検証する試験です。
2023年5月、3.4年のフォローアップ後の結果が発表されました。
内分泌治療の一時的な中断は、短期的には再発や対側の乳がんが増える、といった悪影響を及ぼさないことが示されました。
治療を中断した患者群の8.9%に再発や対側の乳がんが発生しましたが、対照群で9.2%とほぼ同等でした。中断した患者群のうち、74.0%の患者が妊娠し、63.8%が少なくとも1回の出産を経験しました。
ホルモン受容体陽性乳がんは、診断後20年間一定の割合で再発が報告されているとされています。そのため、長期的な安全性を確立するため10年間のフォローアップデータが必要ですが、少なくとも3年間の結果は「 POSITIVE(ポジティブ)=前向き 」な結果を示しています。今、妊娠と治療の両立のために決断をしなくてはいけない乳がん患者さんに、ぜひ知っておいてもらいたい情報です。
Interrupting Endocrine Therapy to Attempt Pregnancy after Breast Cancer | NEJM