コロナ禍の受診控え

がん検診の受診が減っている
乳がんは、早期発見や治療の進歩に伴い、生存率は改善傾向にあります。がんにおいては、早期発見・早期治療が生存率の向上のカギであるにもかかわらず、コロナ禍での受診控え・遅れの問題が明らかになってきています。
2020年は新型コロナの感染拡大により、緊急事態宣言に伴い、4月からがん検診をはじめ、各種健康診断が一時中断されました。移動の自粛を求められたり、コロナ感染を危惧されての検診の受診控えがありました。
公益財団法人日本対がん協会の調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年は、5つのがん検診(胃、肺、大腸、乳、子宮頸)の受診者数はコロナ禍前の2019年度から約2割減となったそうです。乳がん検診は全年齢で20~30%減少し、高齢になるほど減少幅が大きくなっています。 新型コロナの感染リスクが高い高齢者が受診を控えたとみられています。
2020年度はがんの発見数も2019年度と比べて20~30%減少しました。乳がんの発見数は26%の減少と報告されています。がん診断の減少は早期で目立つということで、今後、がんが進行してから見つかるケースが増える恐れがあります。
2021年には受診者数は増えたそうですが、2019年との比較では、乳がん検診の受診は依然として9.9%減であったそうです。コロナ禍で受診控えの影響が大きかった60代以上の方は、まだ乳がんの罹患が多い世代。今からでも遅くないので、検診を受けに来てください!
2021年のがん検診受診者数 新型コロナ流行前より10.3%下回る 前年比23.5%増で回復傾向も受診控えなど影響 日本対がん協会支部調査 | 日本対がん協会 (jcancer.jp)
コロナ禍の影響 60歳以上に顕著な傾向受診者数、がん発見数ともに大幅減 日本対がん協会支部実績から | 日本対がん協会 (jcancer.jp)
女性を取り巻く社会の環境と受診控え
実は、乳がんの発見のきっかけとしては、しこりなどの自覚症状があるため病院を受診し、診断されるケースが半数を占めています。そのため、ご自身で変化を感じたらぜひ専門医を受診していただきたいのですが、自覚症状があっても病院をなかなか受診されない方も一定数いらっしゃいます。
先日、日本医学会連合第4回社会医学若手フォーラムをオンラインで聴講しました。演題の一つは、乳がんの患者さんが乳房の異常に気づきつつも、受診が遅れてしまうことについての報告でした。
症状があっても受診を先延ばしにした女性の背景には、時間的・経済的に困難な状況に置かれている、身の回りに頼れる人がいない、周りの人や状況を優先し自分のことは後回しにしてしまう、といった実情があるそうです。
第4回社会医学若手フォーラム | 一般社団法人日本医学会連合 (jmsf.or.jp)
私自身、実際、外来で診察をしていると、症状があったのに受診が遅れた方を拝見することがあります。「病気」「乳房」のことは人に話しづらい・誰にも知られたくない、日々の生活で忙しい、生活するのに精一杯、様々な情報をインターネットで得て怖くなり受診できなかった、いろいろな方がいました。
それでも受診されたのは、痛みや出血などの症状が我慢できなくなったから、周りの方へ相談し後押しを受けたから、そして、当院が女性スタッフのみだったので勇気を出してきました、という方も。理由は様々ですが、最後はご自身の身体に向き合わなくてはと思われたのでしょうか。
コロナ禍だけにとどまらず、乳房の症状に関して、女性の受診控えは存在します。心身の不調があっても、気軽に周囲に聞けない方もいるだろうし、経済的に困難な状況にある方も。女性の健康に関する正しい情報もそれほど普及していないので、自分は大丈夫と判断してしまう方もいます。
女性自身が健康に関する知識が乏しいのは、そのような教育が不足しているためでしょうし、孤立や困窮といった女性を取り巻く社会の変化は、受診をためらう要因として無縁ではない、と日々の診療で感じています。
自分の身体を大切に
先日、コロナ禍で数年ぶりの検診です、という方が来院されました。
どうして受診することにされましたか?と伺うと、「(自分自身に)後ろめたくて…」 とのこと。幸い異常がなく、安心して帰っていただけました。自分の身体を大切にできるのは自分だけだということを、と改めて教えていただいたような気がします。
もともと日本では乳がん検診の受診率が低く、コロナ禍以前も50%に満たないことが問題となっていました。80~90%程度の欧米と比較すると、かなり低いことが分かります。
乳がんの罹患が増える30代後半、40代、50代、60代の女性は、育児・介護など家庭のことや、仕事をしている方も多い世代。
自分の健康のことは先延ばしにしてしまいがちですが、自分のために、ぜひ定期的な乳がん検診を受けてあげてください。もし、少しでも気になることがあれば、当院へご相談ください。受診された方が自分自身の身体に向き合い、いたわるきっかけになれば、と願っています。