乳がんの症状④乳房のしこり
乳がんは、自分で見つけることができるがん
乳がんは自分で見つけることが出来るがんです。
日本乳癌学会の「全国乳がん患者登録調査集計結果(2018年)」によると、乳がんを発見したときに自分で症状があった方は、50.6%(48,189/94,999例)と半数を占めています。
なお、2004年は、73.8%(10, 878/14,749例)であり、症状があって乳がんが見つかる方の割合は、年々減ってきています。2000年からは50歳以上、2004年からは40歳以上の方にマンモグラフィ検診が推奨されるようになりました。乳がん検診を受ける方が増え、乳がん検診で発見された方の割合が少しずつ増えてきているのでしょう。
乳房のしこりとは?
乳がんの自覚症状として、最も一般的な症状は、乳房の「しこり」です。 私たち専門医は医学用語を用いて、「腫瘤(しゅりゅう)」と呼ぶことが多いです。
しこり/腫瘤は、身体にできたこぶ、かたまり、のようなもので、病気の名前ではなく、私たちの身体に見られる変化ー症状の一つとして考えることができます。原因は何でもよく、一時的な変化で、病気ではないこともありますし、身体のどの場所にも起こります。
体の表面にある皮膚や筋肉などにおきる変化は自分で触れて、しこりとして気づくことがあります。例えば、皮膚にできものが出来て、しこりを触れる。けがをしたところにばい菌が入って腫れて、しこりとして触れる。…という感じです。
同じように、乳房も表在の臓器なので、自分で変化に気づき、しこりを感じることがあります。自分でしこりを発見された方は、しこりがどのようなものであるか、いろいろな言葉で表現をされます。
乳房にかたまりのようなもの・ごろっとしたもの・硬いものがある、胸やわきが張った感じがある、すじのようなもの・米粒のようなもの・ビー玉のようなものがある、反対側にはないものが触れる、前にはなかったものが触れる…という感じです。
この様な症状で受診された方に対して、視触診を実際にしてみると、しこり/腫瘤があるとはっきり言えるものもあれば、はっきり触れない場合もあります。画像検査をしてみて乳がんであったケースもあれば、全く問題のなかったケースもあります。
乳房の乳腺組織が何らかの原因で変化し、結果としてしこり/腫瘤を作ったとしても、全て乳がんというわけではありません。 良性あるいは悪性の腫瘍だけではなく、炎症や女性ホルモンの影響による乳房の変化をしこりとして感じていることもあるのです。
例えば、若い女性でよく見られるしこりの原因として、線維腺腫があります。表面はつるっとしていて、周りとの境界がはっきりしていて、弾力がある感触のことが多いです。ホルモンの影響で乳腺組織などが増殖するものの、良性の変化なので、周りの正常の組織を圧排するように大きくなるため、境目がはっきりしているのです。
一方、典型的な乳がんのしこりは、硬く、周囲との境目がはっきりしません。がん細胞は増殖した細胞たちが、かたまりを作りながら、周囲の組織に腕を伸ばすように拡がります。自分たちが増殖するために、血管や線維組織を周囲にめぐらします。私たちの身体の方は、免疫細胞たちが、がん細胞の排除のためにがんの周りを取り囲んでいきます。乳がんのしこりは、がん細胞の塊だけを硬く触れるのではなく、周囲の反応した組織も触れているため、均一ではなく、周囲との境目がわかりにくいのです。
しかし、乳がんによっては、がん細胞がかたまりを作らずにバラバラと拡がる乳がん、がん細胞と周囲との反応が乏しい乳がん、袋状の構造の内部にがん細胞が増える乳がん、等もあります。そのため、しこりそのものを触れなかったり、触れても境界がくっきりしていることがあります。
また、乳房の表面・浅いところに乳がんができた場合は、ある程度の大きさがあれば、しこりに気づきやすいかもしれませんが、乳房の深いところにしこりができた場合や、しこりが小さい場合には手で触っても気付かないことがあります。
この様に、しこりはあるけど硬くないから乳がんではない、しこりが触れないから大丈夫、とは言えないのです。
マンモグラフィやエコーなどの画像検査を受けていただくと、 自分では自覚していなかった、しこりがうつったり、気になる部分に、しこりが本当にあるのかを見極めたり、しこりが良いものなのか・悪いものなのかの判断が出来ます。
乳がん検診での視触診の省略
最近では、乳がん検診において、視触診を廃止し、マンモグラフィやエコーなどの画像検査のみによる検診を行う施設が増えてきました。
理由の一つには、厚生労働省が主催する「がん検診のあり方に関する討論会」および「日本乳癌学会診療ガイドライン」において、乳房視触診は乳がんの早期発見のための有用性が不明であり推奨しない、とされるようになったためです。
乳がんは、早期に発見すれば、病気を治す確率が高くなりますが、視触診のみでは、ある程度乳がんが大きくならなければ、見つけることはできず、早期発見にはつながりません。経験のある乳腺専門医であっても、上述したように、乳がんのできた場所や、乳がんの種類によっては、視触診のみで乳がんを発見することはできません。
しかし、稀ですが、マンモグラフィのみの検診では異常なしとされていても、視触診で明らかな乳がんが見つかることがあります。当院でも、マンモグラフィではあまり異常がないのに、視触診では明らかに異常ありと言える、乳がんに遭遇することがあります。乳がんが乳房全体にあり左右差があったケース、乳頭からの分泌の症状があったケース、小さなしこりを自覚していたのに検診の時に申告しなかったケース、などです。
乳がん検診で視触診を省略するときには、注意が必要です。 判定を行う医師は、画像のみでの診断になり、情報が少ないためです。まずは、検診に携わる医療スタッフが、乳がんの知識を持ち、問診を丁寧に行い、受診者のささいな症状を気にかける必要があります。撮影にあたる放射線技師・検査技師は、画像の撮影条件や撮影時の乳頭分泌、ご本人の自覚症状の有無などに注意する必要があります。マンモグラフィに超音波検査を併用することも有用かもしれませんが、 やはり、何らかの症状のある方は、当院のような乳腺外科の外来を受診していただいた方が良いでしょう。
一方、視触診を省略すると、良いこともあるかもしれません。受診される方にとっては、男性医師による視触診を敬遠するために検診を受けたくないという人は比較的多いので、女性の技師による検査だけなら、受診のハードルが下がるかもしれませんね。また、検診を行う施設にとっては、医師を確保する必要がなく、一人一人の検診にかかる時間も短くなり、効率的に検診の件数を増やすことが出来ます。
何か変だな?と思ったら.…「検診」ではなく、乳腺外科を受診!
乳がん検診を行う施設では、研修を受けたものが検査にあたり、精度を保ち、乳がんの早期発見に努力しています。しかし残念ながら、明らかな自覚症状があるのに検診を受けたり、検診を受けた後に自分で乳房のしこりに気づく方などがいます。受診する方も 、検診は症状のない方が受けるものであること、日ごろから自分の身体の変化に意識を持っていただくこと、を念頭に置いていただくと、もっと検診は有効なものになります。 検診は、乳房のしこりの診断が目的ではなく、症状のない方が受けて異常を早期に発見することが目的です。いつもと違う変化を乳房に感じたら、検診ではなく、乳腺専門医の診察を受けてください。
まずは自分の身体を知ることから
「自分で触ってもよく分からない」「触っても分からないと思う」「怖いので触りたくない」...当院を受診される方に乳房のセルフチェックをしているか聞いてみると、こういう答えが良く返ってきます。 でも、本当にそうでしょうか?
乳房には個性があります。大きさだけでなく、やわらかい/硬い/張りのある乳房の方もいます。月経の周期によって変化したり、年齢や妊娠・出産によっても乳房は変化しています。
自分の身体の変化や日ごろの状態を一番よく分かっているのは、あなた自身。何かあるのでは…?と思うと怖いかもしれませんが、自分自身の身体を守ることが出来るのはあなたしかいません。まずは、下記のリンクを参考に、自分の乳房をチェックしてみましょう。
もし、分からなくても、大丈夫。ぜひ一度、当院のような、乳腺クリニックを受診してください。マンモグラフィやエコー検査をうけて異常がなければ、それがあなたの乳房にとって普通の状態です。この状態と比べて、変化がないか定期的に見ていくことが大切なのです。
ゆっくりお風呂に使ったり、おいしい食事を味わったり、美しい景色を眺めたり、ショッピングや美容を楽しんだり…自分の身体に意識を向け、その変化を感じることもまた、いつも頑張ってくれている自分の身体に思いやりを示す方法の一つです。