乳がんの症状③わきの下のしこりや痛み
脇の下が腫れていたり、違和感や痛みがあり、気になったことはありませんか?当院にも、「脇のしこりが気になる」「脇が痛くて心配…」と受診される方が数多くいらっしゃいます。
原因
わきの下は医学用語では「腋窩(えきか)」と呼びます。脇の下の腫れの原因にはいろいろなものがあります。何科を受診すればよいのかと困られているかたも多いのではないでしょうか。この部分にはリンパ節、副乳・乳腺、皮膚・脂肪・筋肉・神経・血管などが存在するのですが、乳腺外科、内科や皮膚科、整形外科の病気が考えられます。
①副乳、乳腺の場合
哺乳類のうち、犬やねこ、牛などは一対以上の乳房を持っています。人間も胎児のときには、複数の乳腺の”もと”を持っていますが、退化して一対になります。これが消えずに残ってしまったものを副乳、「異所性乳腺」と呼んでいます。脇の下から乳房、足の付け根にかけて、女性の1~6%にみられます。左右にある場合、片側だけの場合、乳頭・乳輪だけのもの、乳腺組織だけのものなどいろいろあります。
妊娠・授乳期に、わきの下の腫れや痛みが出たのをきっかけに、この副乳の存在に気がつく方がいらっしゃいます。乳腺は女性ホルモンの影響をうけて腫れたり、痛みが出ることがあるため、更年期や生理前などホルモンバランスの乱れで、脇にある副乳が痛む方がいます。また、副乳のない方でも、ホルモンの影響で乳房が張り、わきの下に痛みを感じる方がいます。
まれですが、副乳に乳がん・乳腺の腫瘍ができることがありますので、しこりなどの症状が続くときは一度乳腺外科を受診してください。
②腋窩リンパ節(わきの下のリンパ節)の場合
私たちの身体には、血管が張り巡らされており、全身の細胞に酸素や栄養を送っています。血管のそばには、リンパ管が伴走しています。リンパ管は、水分、老廃物やたんぱく質を回収したり、消化管から吸収された栄養素などを運んでいるほか、リンパ球などの白血球の通り道にもなっています。リンパ節は、白血球が、身体に入ってきた異物、細菌やウイルスなど外敵からの見張りを行う基地のようなもので、首(頚部)、鎖骨のくぼみ、足の付け根(鼠径部)、脇の下(腋窩)に重要な拠点があります。
風邪をひいたときに、首のリンパ節が一時的に腫れたことはなかったでしょうか?腕にけがをしたときなど、細菌やウィルスなどが身体に入り込むと、リンパ節が腫れてしまうことがあり、反応性のリンパ節腫大と呼んでいます。感染によるものでは、リンパ節に痛みや赤み、うみがたまるときもあります。また、同じような免疫系の反応によるリンパ節の腫れは、ワクチンの接種後の副反応として、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患でみられることがあります。
また、乳がんや、まれですが悪性リンパ腫などの、悪性疾患によるリンパ節の腫れのこともあります。乳がんによるリンパ節の腫れは、通常は乳房内にできた乳がんのがん細胞がリンパ節に転移することにより起こります。腋窩のしこりで見つかり、腋窩リンパ節に乳がんの転移を認めるが、マンモグラフィやエコーなどの検査では乳房に異常を認めない潜在性乳がんは全乳がんの0.1~0.2%にみられます。
③皮膚、脂肪、筋肉、神経、血管の場合
わきの皮膚の毛穴が詰まったり、細菌感染を起こして、赤くなったり、膿がたまるときがあります。毛包炎、せつと呼ばれています。また、皮膚にできる粉瘤というしこりがあります。皮膚の下に袋ができて、その中に老廃物が溜まってできるものです。感染して、赤く腫れたり、痛み、悪臭といった症状が現れることがあります。
皮膚のすぐ下には、脂肪があります。脂肪腫は良性の脂肪の腫瘍で、柔らかいしこりとして触れます。わきの下のさらに奥には、腕や肩、首、背中、胸に関係する神経や血管、筋肉が集まっています。筋肉の炎症、外傷や、運動不足などの生活習慣によるものも、痛みや張りの原因になることがあります。
診断
問診では、既往歴、内服薬、発熱や倦怠感などの全身症状の有無や、どのようなときに痛みがでるか、いつからしこりを触れるか、月経の周期との関連がないかなど、丁寧に問診を行います。
診察では、腫れている所の場所、大きさ・硬さ、痛みはないか、良く動くか、などを確認し、皮膚のしこりなのか、リンパ節や副乳なのかを考えます。
乳腺外科では、必要に応じて、マンモグラフィやエコー検査を行います。エコー検査では、わきの下のリンパ節を詳しく観察できます。エコー検査で乳がんを疑う所見があれば、細胞や組織を採取して、病理検査を行います。
悪性リンパ腫や感染症などは内科的な病気です。微熱・倦怠感、寝汗をかく、体重減少…など様々な全身の症状を伴います。粉瘤や、毛包炎など皮膚の変化は皮膚科、筋肉や骨の病気は整形外科になります。乳房や腋窩に異常がなければ、ほかの科の病気かもしれません。
治療
副乳は、特に治療の必要性はありません。副乳の痛みがホルモンバランスによるものである場合は、漢方薬を処方することもあります。
リンパ節炎、粉瘤や、毛包炎など、感染を起こしている場合は、抗生物質の処方や、膿を出す処置が必要なこともあります。乳がんなどの悪性腫瘍、内科的、整形外科的な病気についてはここでは省略します。