乳がんの症状②乳頭からの分泌物
乳頭(乳首)から分泌物が出るとき
妊娠・授乳期になると、赤ちゃんに栄養や免疫力を与える母乳を作り、赤ちゃんへ与えるために、乳房(乳腺)が発達してきます。乳腺には母乳を作る「小葉」と母乳の通り道である「乳管」があります。乳頭の先には、母乳の出口である穴が15~20個あるとされ、出産によりこの穴から分泌物(母乳)が出るようになります。母乳が分泌され始めるのは、妊娠後期の出産間近の数週間から出産後です。妊娠・授乳期の乳腺の発達や、母乳の分泌には、女性ホルモン(エストロゲン)や、プロラクチン、オキシトシンなどのホルモンが関与しています。
妊娠・授乳中でもないのに、乳頭(乳首)から分泌物が出ることがあり、乳頭異常分泌といいます。乳腺外科には、「乳首から出血している」「下着にシミのようなものがついている」「しぼると、白っぽいカスのようなものがでる」・・・など、様々な訴えで受診されます。いわゆる「乳頭分泌」ではなく、乳頭乳輪部の皮膚の炎症による浸出液を「乳頭分泌」と考えて受診される方もいますが、厳密には、乳頭の先にある穴から分泌がみられることを「乳頭分泌」と言います。
分泌物が透明・黄色・白・白濁したものの場合は、女性ホルモンのバランスの乱れによるものがほとんどです。乳頭からの分泌物で特に注意を要するものは、血が混じったような赤色・茶色のもので「血性分泌」と呼ばれています。乳腺の良性の腫瘍が原因であることが多いのですが、乳房の感染症や乳がんが原因のこともあります。
乳頭異常分泌は、乳腺の疾患で起こることが多く、一度乳腺外科を受診して診察を受けることをお勧めします。
原因
乳頭異常分泌の原因として以下のことが考えられます。
①しこりを作らない乳がん~非浸潤性乳管癌など
乳がんは、乳管や小葉の上皮細胞から発生します。発生した乳がんがその乳管や小葉の中にとどまっていて、周囲へ広がっていない状態を「非浸潤性乳がん」と言い、きわめて早期の乳がんです。乳がんの症状でよく見られる「しこり」を作らないがんとして、近年、乳がん検診で「石灰化」「触知しない腫瘤(しこり)」として、よく見つかるようになりました。乳管から発生した、乳管内にとどまっているがんは、「非浸潤性乳管癌」と呼ばれています。がん細胞が産生した分泌物が、乳管を通じて乳頭から出てくると、乳頭分泌として症状を自覚されます。乳頭分泌だけが唯一の症状で、マンモグラフィやエコーでは異常がないこともあり、定期的に経過観察を行う中で、画像上変化が見られ、診断に至ることがあります。それだけ微小な病変で進行がゆっくりなものであり、診断・治療まで時間を要するときがあります。
②そのほかの乳腺の病気~乳管内乳頭腫、乳腺症など
乳管内乳頭腫は乳腺のなかの「乳管(母乳の通り道)」にできる、良性の腫瘍です。乳頭から分泌物がでる、しこりを触れるなどの症状があります。乳腺症は、女性ホルモンのアンバランスが原因で起こり、乳房のしこりや痛みなどが見られるのが特徴ですが、乳頭分泌がみられることもあります。そのほか、細菌感染による乳腺炎が原因で分泌を認めることがあります。
③内服薬によるもの、そのほかのホルモン異常
乳腺に異常がなくても、ホルモン異常などにより分泌を起こすことがります。抗うつ薬、高血圧・胃潰瘍の薬などの副作用による乳頭分泌は良く知られています。甲状腺疾患やピルの服用で起こることもあります。両方の乳頭から多量に分泌液がでるときには、「脳下垂体腫瘍」というまれな腫瘍が原因のことがあります。
出産後、断乳しても数年、乳汁分泌が続くことがあります。その場合、プロラクチンというホルモンが高い時があり、不妊の原因となることがあります。
診断
問診では、既往歴や、内服薬、症状がどのような時に見られるか(毎日出る、止まっていることがある)、月経の周期との関連がないかなど、丁寧に問診を行います。
診察では、乳頭をつまんで分泌物の状態を見るほか、しこりの有無などを診ます。
・分泌物が、両方あるいは片方の乳首から、1か所あるいは複数の穴から出てきているか。押すとでてくるポイントがあるか。
・分泌物の性状:白色・黄色・赤色・茶色・透明でさらさらしたもの・濁ったもの・塊のようなものなど。マンモグラフィなどで強く圧迫したときに出る程度のわずかなものから、ガーゼなどをあてていないと下着が汚れてしまうものまで量もさまざまです。
必要に応じて、マンモグラフィやエコー検査を行います。画像検査で乳がんを疑う所見があれば、細胞や組織を採取して、病理検査を行います。分泌物を採取して病理検査に提出したり、分泌物中のCEA(がん細胞が分泌する物質)を測定することがあります。場合により、乳房のMRI検査を追加したり、診断のために、分泌の原因となっている乳管を含む乳腺の一部を切除することがあります。
治療
非浸潤性乳管がんは、予後が良好ながんです。手術・放射線治療、場合によりホルモン治療を組み合わせて治療を行います。
乳がんによるものではない場合、通常は経過観察を行います。
乳管内乳頭腫は、基本的に治療を要しません。乳管内乳頭腫を切除すると、1-2割に早期の乳がん(主に非浸潤性乳管癌)が見つかることがあります。乳管内乳頭腫が多発するものでは、画像上がんとの区別が難しい時もあります。そのため、乳管内乳頭腫の方は、定期的な経過観察を行っています。不安やご心配があるときは、申し出てください。血性分泌が続き量が多い時、高齢の方でがんを疑う時などは、診断と治療を兼ねて、分泌の原因となっている乳管を含む乳腺の一部を切除することがあります。
乳腺症や一時的な女性ホルモンのバランスによるもの、薬剤性のものと思われるときは、経過をみます。ホルモン異常、婦人科的・内科的な病気が疑われる場合は、専門医での治療となります。
セルフチェックのポイント
いつも同じ側の乳頭の同じ穴から、分泌物が続くときは、注意が必要です。乳頭から分泌物が出る場合、ほとんどは問題ありません。乳がんのほかにも、さまざまな病気の可能性が考えられます。まずは落ち着いて乳腺外科を受診するようにしましょう。
乳がんの症状には、このほかにも、乳房やわきのしこり、乳房の痛み・ひきつれ・凹み、乳頭の凹み・変形・ただれ・湿疹、乳房の大きさの左右差、乳房全体が固くなるなどがあります。乳がんを早めに見つけるためには、定期的な検診と、普段のセルフチェックが大切です。