ピルと乳がんの関係|乳腺専門医が考えるリスクと安全性
はじめに
経口避妊薬(OC、いわゆる“ピル”)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は、避妊や 生理不順、PMS、 月経困難症の改善に有効で、女性のQOL(生活の質)向上に大きく貢献します。
一方で、 乳がんリスクとの関係について心配する声もあります。「ピルを飲むと乳がんになりやすくなるって本当?」そんな疑問を抱いて、当院を受診される方は少なくありません。
当院では「服用は問題ないけれど、定期的な乳がん検診を受けるようにしましょう」と患者さまにおすすめしています。
今回は、ピルと乳がんの関係性についてお話します。
1. 経口避妊薬(OC、いわゆる“ピル”)、低用量エストロゲン・プロゲスチン とは?
ピル(以下、OC)とは、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲスチン)を含んだ薬で、排卵を抑えることで避妊効果を発揮します。
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(以下、LEP)は、OCと同じくエストロゲンとプロゲスチンを含みますが、エストロゲン量がより少なめで、副作用リスクを軽く設計されています。日本では、生理痛の軽減や子宮内膜症の治療にも使われます。
2. OCやLEP使用と乳がんリスクの関係
■ 一時的なリスク増加が示された研究も
研究によれば、OCやLEP使用を使用中または最近まで使用していた女性では、乳がんのリスクがわずかに上昇する可能性が示されています。
🔍 使用中の女性では、使用していない女性と比較して乳がんのリスクが約10~20%増加
ただし、30歳くらいの若い人では、もともとの乳がんリスクが低いため、実際のリスクの増加は0.01〜0.02%程度とごくわずかです
■ 使用をやめるとリスクは低下
OCやLEP使用を中止すると、5〜10年以内に乳がんリスクは非使用者とほぼ同等になると報告されています。
最近は含有されるエストロゲンの量や製剤の種類などを考慮すれば、リスクが増加しない可能性もあると考えられています。
3. 年齢・家族歴などの他の要因の影響
ピルのリスクは年齢や遺伝的要因にも左右されます。
- 若年女性(20〜30代)であれば乳がんリスク自体が低いため、OC/LEPによる相対リスクが上がっても実際のリスクは極めて小さいです。
- 乳がんの家族歴がある方は、使用前に医師と相談しましょう
4. メリットとリスクのバランスを考える
OC/LEPには以下のようなメリットもあります:
- 卵巣がん、子宮体がん、大腸がんなどのリスク低下
- 月経痛・PMS・ニキビ・生理不順などの改善
そのため、使用にあたっては、「乳がんリスクのわずかな増加」だけに注目するのではなく、全体的な健康への影響を総合的に考えることが大切です。
5. まとめ|ピル内服と乳がんのリスクを正しく理解しよう
- ピル使用により乳がんリスクがわずかに上昇する可能性があるが、リスクの絶対値は小さい
- 使用を中止すれば、リスクは数年で元に戻る
- 卵巣がん・子宮体がんなどの予防効果、月経に伴う症状の改善、避妊など女性の生活の質を改善してくれる効果がある
- 使用前には、婦人科の医師と相談のうえ、自分に合った薬剤を納得して選択しましょう
- これをきっかけに定期的な乳がん検診も考えて
最後に
ピルの使用に関する情報は、ネット上にさまざまありますが、信頼できる医療機関の情報や医師のアドバイスに基づいて、納得して判断することが大切です。
乳がんに関しては、日ごろから自分の乳房の状態を気にかけて、年に1回は定期的に検査を受け、早期発見に繋げることが重要です。
いずれにしても、OC/LEP服用がきっかけで乳がん検診を始めるのは非常に良いきっかけになりますね。
「ピルを使ってみたいけど不安がある」という方は、気軽に相談してくださいね。乳がん検診の内容やスケジュールを一緒に考えていきましょう。