乳がんはなぜ何年も後に再発するの?| 治療後も体内に潜む「休眠がん細胞」の最新の研究

乳がんの治療中の方によく聞かれる質問です。
「抗がん剤は終わったけれど、本当にこれで大丈夫でしょうか?」
「何年も経ってから再発することがあると聞いて、不安になります」
世界中の研究者が「なぜ乳がんは何年も後に再発することがあるのか」という疑問に長年取り組んでいます。
その中心的な考え方の一つに、「休眠がん細胞」という概念があります。
再発の原因は「取り残されたがん」だけではない
これまで、がんの再発は、
- 手術で取り切れなかったがん
- 抗がん剤が効かなかったがん
が少しずつ増えた結果だと考えられてきました。
しかし近年の研究では、
「いったん増えるのをやめて、長期間眠り続けるがん細胞が存在する」
ことが分かってきました。
これが休眠がん細胞です。
休眠がん細胞とは?
休眠がん細胞とは、乳がんの発生の比較的早い段階に、元の乳房(原発巣)を離れ
骨髄やリンパ節などに移動し、増殖せず、何年も眠ったまま生き残る がん細胞のことを指します。
重要なのは、
- 分裂しないため抗がん剤が効きにくい
- 数が非常に少なく、画像検査にも写らない
- 免疫の目を避けるように静かに存在する
という点です。
つまり、「治療が成功したように見えても、完全に消えたとは限らない細胞」が存在し得るのです。
なぜ「眠る」という戦略をとるのか
研究によると、がん細胞が体内を移動するとき、
ほとんどの細胞は途中で死んでしまいます。
免疫細胞の攻撃や、
新しい環境への適応に耐えられないからです。
その中で生き残るために、がん細胞は、
- エネルギー消費を抑える
- 増殖を止める
- 周囲と目立たない関係を築く
という「冬眠のような状態」に入ると考えられています。
これは一種の生存戦略です。がん細胞も生き残りたいわけです。
何がきっかけで再び目を覚ますのか?
休眠が永遠に続くとは限りません。
最新の研究では、
- 強い炎症
- 感染症(インフルエンザや新型コロナなど)
- 加齢による組織の変化
- 慢性的なストレス
- 体内環境の変化
などにより、免疫のバランスが崩れたときに、休眠状態が解除される可能性が示されています。
このとき、眠っていた細胞が再び分裂を始め、元の乳がんと同じ性質を持つ腫瘍を作ることがあります。
これが「遅れて起こる再発」です。
休眠がん細胞 を「見つける」:SURMOUNT試験
この休眠がん細胞に対し、最初に行われたのがSURMOUNT(サーモント)研究です。
この研究では、がん治療を終えた患者さんを対象に骨髄などから細胞を調べ休眠がん細胞が本当に存在するのか
を丁寧に調査しました。
その結果、治療後でも一定割合の方に休眠がん細胞が見つかることが示されました。
これは、「再発は偶然ではなく、生物学的な理由がある」
ことを裏付ける重要な成果でした。
休眠がん細胞 を「消す」研究:CLEVER試験
次のステップとして行われたのが、CLEVER(クレバー)試験です。
この研究では、SURMOUNTで休眠がん細胞が確認された患者さんにすでに臨床で使われている薬を応用し休眠がん細胞を減らせるか、消せるかを検証しました。
使われた薬は、
- 細胞の代謝や生存を支える仕組み(mTOR経路)
- 休眠状態を保つための自己再利用(オートファジー)
といった、休眠細胞が生き延びる土台を弱らせることを狙っています。
まだ小規模な試験ですが、多くの患者さんで休眠細胞が減少したという結果が報告されており、将来的な再発予防につながる可能性があります。
大切なのは「過度に怖がらないこと」
ここまで読むと、不安が強くなった方もいるかもしれません。
大切なのは、
- 休眠がん細胞があっても 一生再発しない方が大多数であること
- 研究が進んだことで再発の「理由」が分かり始めてきたこと
- 将来は 再発を未然に防ぐ治療が現実になる可能性があること
です。
今日からできる再発を防ぐためのセルフケア
● 定期通院を続ける
症状がなくても、定期的なチェックはとても重要です。
● 無理のない運動
ウォーキングなど、続けられる動きを習慣に。
● バランスのよい食事
極端にならず、「整える」意識を大切に。
● 睡眠と休息
免疫を保つために、休むことを後回しにしない。
● 不安は相談する
不安を我慢する必要はありません。
「なぜ再発するのか」を知りたくて研究の道へ
私は乳腺外科医として診療を続ける中で、
「なぜ乳がんは、あれだけしっかり治療しても再発することがあるのだろう」
という疑問を、ずっと抱いてきました。
同じような病状で、同じように手術・抗がん剤・放射線治療という
いわゆる「フルコースの治療」を行っても、再発せずに元気に過ごされる方がいる一方で、数年後に再発してしまう方もいる。その違いは、いったいどこにあるのか――。
その答えを知りたくて、私は約2年弱、アメリカでがんの生物学(がんバイオロジー)を研究する機会を得ました。
研究では、がん細胞そのものだけでなく、がんの周囲を取り巻く微小環境、免疫細胞との関係、血流や血管との関わり、同じ腫瘍の中でも性質が異なるがん細胞の多様性といった点に注目しました。
特に、脳や肝臓への転移について、マウスのモデルを用いながら、できるだけ人の体の中で実際に起こっている状況に近づける工夫を重ねました。
がん細胞がどのように移動し、新しい場所でどのように生き延び、なぜすぐには増えず、静かにとどまることがあるのか――。
こうした現象を、メンター(指導者)とともに丁寧に観察していました。
研究を通して学んだのは、
がん細胞は、眠っている間も(そうでない時も)周囲と絶えずやり取りを続けている
ということです。
メンターとは、よくこんな話をしていました。
がん細胞は賢い。
排除しようとする免疫細胞から身を隠し、時には味方につける。
周囲の血管や脂肪など正常な組織の力を借りながら、酸素や栄養を取り込む。
そうして生き延びる準備を続けている――。
アメリカへの留学は、純粋な探究心に導かれた部分もありましたが、
同時に、治療が時に難しい患者さんと向き合い、自分の無力さを感じていた時期でもありました。
毎日、顕微鏡を通してがん細胞を観察していると、
生命の複雑さの前に、自分の小ささを痛感します。
しかし同時に、
「がんの再発には必ず生物学的な理由がある。理由があるなら、いつか必ず解決できる。
そのために、自分にできることを一つずつやっていこう。」
そう思えたことが、再び臨床の現場へ向かう大きな原動力になりました。
最後に|研究と診療、両方を知っているからこそ
今、世界中で行われているSURMOUNT や CLEVER のような研究を見ていると、
「研究室で向き合っていた疑問が、ようやく患者さんの役に立つ形になり始めている」
と感じます。
もちろん、これらはまだ研究段階で、すぐにすべての方に使える治療ではありません。それでも、再発は「理由のない出来事」ではなく、理解が進めば防げる可能性が見えてきています。実際、新規の薬剤もこの数年で増えて、治療の個別化も進んでいます。
乳がん研究は確実に前に進んできています。
一方、乳がんの治療後、不安を感じるのはとても自然なことです。不安があるのは、真剣にご自身の体と向き合っている証拠です。一人で抱え込まないようにしてください。
私は、研究者として「なぜ起こるのか」を考え、医師として「どう支えるか」を考えてきました。
これからも、最新の研究に目を向けながら、
目の前の患者さん一人ひとりに寄り添う医療を続けていきたいと思っています。
気になること、不安なことがあれば、
どんな小さなことでも、いつでもご相談ください。
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