ピアサポートとは? 〜がん経験者が支える力〜

がんと向き合う時間は、検査や治療だけでなく、心の重さや不安、孤独感なども大きな負担になります。そんな中で、「同じ経験をした仲間(ピア)」と語り合うことで、安心や希望を得られるのが ピアサポート です。
がん経験者(またはそのご家族)がピアサポーターとなり、自分の体験を通じて他の患者さんやご家族を支える。専門的な医療ケアとは異なる、がん体験という “共通のことば” を持った人同士のつながりが生む支えには、大きな意味があります。
「ピア(Peer)」とは?
「ピア(Peer)」は、英語で「仲間」「同等の者」を意味します。対等な立場で支えあうという概念がピアサポートの本質です。専門家と支える側・支えられる側、という上下関係ではなく、同じ体験を共有した者同士 が安心して気持ちを分かち合うのがこの支援の特徴です。
海外におけるピアサポートの歴史
ピアサポートの考え方は、がん分野だけでなく精神医療や依存症ケアなど、さまざまな分野で発展してきました。
18世紀後半、フランスの精神病院で回復した患者が他の患者を支えるという記録があり、これがピア支援の始まりの一つとされます。20世紀になり、精神疾患を持つ人たちが「自分たちで支えあおう」という運動を始め、地域で互いに助け合うネットワークが広がりました。1980年代以降アメリカで がん体験者・家族のための支援団体が登場。対面のサポートグループや教育プログラムを通じて、がん患者支援におけるピアサポートが制度として定着したそうです。
日本におけるピアサポートの現状
日本でもがんピアサポートの重要性は高まっています。ただし、十分に活用されているかというと、まだ課題もあります。
- 養成・研修
がん患者団体支援機構では、ピアサポーター養成講座を定期的に開催しています。
また、都道府県単位でも研修があり、ピアサポーター養成講座を実施しています。 - 地域活動
がん診療連携拠点病院のサロンでピアサポーターが定期的に相談支援を行っている例があります。
自治体のピアサポーター養成講座修了後はがん患者サロンで相談や交流を支える活動に参加する機会があるところも。
オンラインと対面を融合した “ハイブリッド型” ピアサポート運営を行っているところもあります。
コロナ禍で変わったピアサポート
新型コロナウイルスの影響は、ピアサポートにも大きな変化をもたらしました。
- 対面活動の制限
サロンやグループミーティングが中止・縮小され、多くの場所で “つながりの場” が失われました。 - オンライン化の加速
Zoom や SNS を介したオンラインミーティングが普及し、地理的な制約を超えて参加できるようになりました。 - 新たな課題
- オンライン参加に不慣れな方(特に高齢者)が参加しづらい
- ハイブリッド形式を運営するためのスキル、リソース不足
- 支援の質をオンラインでどう担保するか、という検討が必要
ピアサポートを受けられる場所
- がん相談支援センター(病院内)
看護師・ソーシャルワーカーが常駐し、ピアサポーターと連携して相談を受けるところが多くあります。 - 患者会・サポートグループ
特定がん種や年代、地域ごとに活動する患者会が定期的に “サロン” や交流会を開催しています。 - クリニックでの語りの場
かかりつけクリニックが主催するピアサポートの集まりもあり、小規模で気軽に話せる利点があります。 - オンラインコミュニティ
Zoom、チャット、SNS などを使って、全国・全世界とつながることが可能です。
参考:がん相談支援センターとは?
がん相談支援センターは、がんに関する悩みや疑問を相談できる窓口です。
がん相談支援センターの特徴
- 専門の相談員(看護師・ソーシャルワーカーなど)が対応
- がん診療を行っている大きな病院に設置
- 無料・匿名で相談可能
- 電話相談ができる場合もあり
しかし、ネットで検索しても見つけにくく、存在自体を知らない方も多いのが現状です。
必要なときに適切なサポートを
がん診療では、手術や薬物治療が大きな役割を果たしますが、心のケアや社会的なサポートも非常に重要です。今は必要ないと感じていても、こういったサポートが受けられる場所を知っておくだけでも安心につながります。
当クリニックでは、ピアサポートの場を提供するとともに、必要に応じてがん相談支援センターなどの情報もお伝えしています。ひとりで悩まず、ぜひご相談ください。
ピアサポーターになるには?
もし「自分の体験を誰かの支えにしたい」と思われる方がいたら、以下をご参考にしてください。
- 自己の経験を振り返る
治療や療養中に得た気持ちや知識を整理し、自分がどのようなサポートを提供できるかを考えます。
ただし、治療直後など感情が不安定な時期は無理せず、回復後に検討するのが望ましいです。 - 養成講座・研修を受ける
研修内容には、傾聴技術、境界線設計、プライバシー保護、オンライン支援の進め方などが含まれます。 - 活動先を選んで登録・参加
研修後には、自分の住まいや希望に合わせて以下のような場で活動を開始できます。- がん相談支援センター
- がんサロン(病院・地域)
- 患者会の定例ミーティングや交流会
- オンラインピアサロン
- 多くの場合は、 見学 → 同席 → 先輩サポーターとの協働 → 独り立ち というステップで活動を始めます。
- 継続的な学びとセルフケア
ピアサポーターとして活動を続けるには、自分自身のケアも非常に大事です。- 定期的な振り返り
- 他のサポーターとの交流・情報交換
- 感情や負荷が大きくなったときの相談体制を確保
院長からのメッセージ
ピアサポートは、がん医療において「もう一つの治療」と言っても過言ではありません。治療そのものが進んでいても、心の部分では不安や孤独を感じる方は多くいらっしゃいます。
私たち医療者だけでなく、同じ経験をした仲間(ピア) の存在が、患者さんやご家族にとって大きな支えになります。
- 相談を受けたい方へ:当クリニックでは、不定期ですが、ピアサポーターを交えた語りの場を提供しています。どんな小さな不安でも、安心して相談してください。
- ピアサポーターを目指す方へ:あなたの経験は誰かの希望になります。まずは情報を集め、研修に参加してみてください。
一人でも多くの方が、つながりと支えを感じられる社会になればと、心から願っています。
参考となるリンク
ピアサポートとは – がん患者団体支援機構 (canps.jp)
患者同士の支え合いの場を利用しよう:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]