乳がんは遺伝しますか?
2013年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝子検査で乳がんになりやすい体質(BRCAという遺伝子の変化)を持っていることが分かったため、乳がんになる前に両方の乳房を切除する手術を受けたと公表しました。
この決断は「アンジェリーナ・エフェクト」と呼ばれるほど世界的に注目され、遺伝性乳がんや「HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)」という言葉を多くの人が知るきっかけになりました。
「乳がんって遺伝するの?」「日本でも同じように検査できるの?」と、その当時、関心を持った方も多いのではないでしょうか。
実は、乳がんの多くは「遺伝ではない」
まず大前提として、乳がんの 90〜95%は遺伝とは関係ありません。
食生活やホルモンの影響、ライフスタイルなど、さまざまな環境因子が複雑に重なって発症すると考えられています。
一方で、残りの5〜10%は「遺伝性乳がん」 です。
つまり、ご家族から受け継いだ遺伝子の変化(変異)が関係して、乳がんや卵巣がんのリスクが高くなるケースがあります。
遺伝性乳がんが疑われるのはどんなとき?
「家族に乳がんの人がいる=必ず遺伝性」というわけではありません。
逆に、家族に乳がんがいなくても遺伝性の可能性があることもあります。
例えば、次のような場合には専門的な評価が勧められます。
- 50歳以下で乳がんを発症した方
- 両側に乳がんが見つかった方、または片側に複数のがんがある方
- トリプルネガティブ乳がんと診断された方(特に60歳以下)
- 男性で乳がんを発症した方
- 家族に卵巣がんや乳がんの方が複数いらっしゃる場合
これらはいわゆる「HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)」を疑う典型的なサインです。
遺伝子「BRCA1」「BRCA2」とリスク
多くの遺伝性乳がんでは、BRCA1またはBRCA2という遺伝子に変化があります。
これらの遺伝子は本来「がんを抑える役割」をしているのですが、変化があるとその力が弱まり、がんになりやすくなります。
- BRCA1/2に変異がある女性
- 生涯で乳がんになる確率:26〜84%
- 卵巣がんになる確率:13〜46%(遺伝子のタイプによる)
- BRCA変異をもつ男性
- 乳がんのリスク:約6%
- 前立腺がんのリスクも上昇
ただし、変異がある=必ずがんになる、というわけではありません。
発症しないまま一生を過ごす方もいます。
なぜ知っておくことが大切?
「もし自分が遺伝性乳がんだったら」と考えると、不安やショックを受ける方も少なくありません。
しかし知っておくことで、次のようなメリットがあります。
- ご本人の治療方針(温存か切除かなど)を考える材料になる
- ご家族が適切な検診を受けられるようになる(早期発見につながる)
- 将来の予防や検査の選択肢が広がる
つまり「遺伝性の可能性を知ること」は、患者さんご自身だけでなくご家族にとっても意味があるのです。
最近、乳がんを罹患された場合、条件を満たせば、BRCA1やBRCA2の遺伝子検査が保険適用になりました。次回は、遺伝子検査のメリット・デメリット、そして検査で何がわかるのかを解説します。