乳がんの遺伝子検査を受けるかどうか?
最近、BRCA1やBRCA2の遺伝子検査が保険適用になったことから、検査を受ける方が増えてきました。
その影響で、テレビや新聞でも取り上げられる機会が増え、患者さんからも「私も受けた方がいいですか?」とご相談をいただくことが多くなっています。
遺伝子検査でわかること
検査では、BRCA1やBRCA2といった「がん抑制遺伝子」に変化があるかどうかを調べます。
もし変化(病的バリアント)が見つかれば、生涯のうちに乳がんや卵巣がんになる確率が高い ことがわかります。
例)
- 乳がんのリスク:50〜90%(一般女性は約10%)
- 卵巣がんのリスク:20〜60%
もちろん「必ず発症する」という意味ではなく、あくまで確率が高くなる、ということです。
保険適用と費用について
2020年からBRCA1/2遺伝子検査が保険適用となり、乳がんと診断された患者さんが対象の場合は、自己負担6万円程度で受けられるようになりました。
ただし、未発症のご家族への適用にはまだ制限があり、今後の課題とされています。
また、検査を受ける前には「遺伝カウンセリング」を受ける必要があり、保険適用かどうか、施設によっても異なりますが、1〜2万円程度の自己負担がかかる場合があります。
費用や制度はやや複雑なため、確認していただくのが安心です。
検査を受けるメリット
- 治療方針に役立つ
 BRCA遺伝子に変化がある方は、乳がんが多発するリスクや、同じ乳房の中で再発(乳房内再発)するリスクが高いといわれています。
 そのため、手術方法を考えるときに「乳房温存術でよいのか」「乳房切除を検討すべきか」といった判断に直接関わってきます。初回治療の段階で、本人の価値観、がんのタイプや進行度をふまえ、将来を見据えた治療方針を選ぶことが大切です。
- 予防の選択肢が広がる
 2020年から、がんを発症する前にリスクを減らす、予防的切除(乳房や卵巣・卵管の切除)が条件を満たせば保険適用となりました。ただ、必ずしも手術を受けなければならないわけではありません。手術に伴う体への負担や気持ちの面での影響もあり、「今は経過観察を続けたい」と考える方もいます。どちらが正しい・間違っているということではなく、納得して選択できるかどうか が最も大切です。
- ご家族の健康管理にもつながる
 血縁のご家族も同じ遺伝子を受け継いでいる可能性があるため、早めの検診や検査ができるようになります。
検査のデメリット
検査で分かるのは「がんのなりやすさ」であり、すぐに病気が見つかるわけではありません。
そのため、「知って安心する方」もいれば、「知ることでかえって不安が大きくなる方」もいらっしゃいます。
また、この遺伝子は、乳がんや卵巣がんだけでなく、膵臓がんや前立腺がん、男性乳がんなど、ほかのがんのリスクにも関わることが分かっています。つまり「乳がんの検査を受けたつもりが、思いがけず他のがんのリスクも知ることになる」場合があります。
検査結果はご本人だけでなくご家族の健康にも関わる可能性があるという点も、注意点です。 ご家族に結果をどう伝えるかも悩みの種となります。
未発症の家族の遺伝子検査や予防的切除はまだ保険適用外であるなど、リスクが分かってもできることに制限がある場合もあり、制度面は今後も改善が期待されます。
乳がん術後治療の選択肢としての遺伝子検査
2022年8月には、PARP阻害薬オラパリブ(商品名:リムパーザ)の日本での適応が拡大されました。
この変更により、再発リスクが高いと考えられる遺伝性乳がんの方には、術後1年間オラパリブを内服することが標準治療の一つとなり、再発リスクを抑えるための選択肢が広がりました。(HER2陽性の方は対象になりません)
もちろん実際に使えるかどうかは個々の病状や治療経過により異なりますが、遺伝子検査を受けることで、こうした新しい治療薬の対象になるかどうかを判断できるという大きなメリットもあります。
かかりつけ医の役割
遺伝子検査や予防的切除を受けるかどうかは、簡単に答えが出るものではありません。
「リスクを減らしたい」「手術には抵抗がある」など、気持ちは人それぞれです。
遺伝子検査や遺伝性乳がんの治療方針は、専門的で複雑な内容が多く、不安を抱えるのも自然なことです。
そんなときに大切なのは、まず担当医、かかりつけ医に相談することです。
特に2020年以前に乳がんと診断された方の中には、保険適用のことをご存じない方も少なくありません。
だからこそ、かかりつけ医が正しく情報をお伝えすることがとても大切だと感じています。 
当院でも、必要に応じて遺伝カウンセリングを行っている専門施設へのご紹介が可能ですので、ご安心ください。
かかりつけ医は、患者さんの生活背景やご家族の状況も理解したうえで、必要に応じて遺伝カウンセリングや専門施設へとつなぐ「最初の窓口」になります。
また、手術や薬物療法といった専門的な治療を受ける間も、日常的な体調管理や心のケアを支えていく役割を担っています。
「検査を受けるべきか」「どんな治療が自分に合っているのか」と迷ったとき、ひとりで悩まず、まずは声をかけていただければと思います。
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