乳腺炎とは、乳腺組織の炎症を指す総称です。原因は様々ですが、炎症によって乳房の腫れ、赤み、熱感、痛みなどが見られます。主に授乳中の女性によく見られますが、それ以外の女性や男性にも起こる可能性があります。授乳中の乳腺炎でセルフケアでは改善しないとき、授乳中ではない方が乳腺炎をおこしたときは、受診をお勧めします。
乳腺炎にはいくつかの種類がありますが、経過によって急性乳腺炎と慢性乳腺炎に大きく分けられます。
急性乳腺炎にはうっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎があります。うっ滞性乳腺炎から急性化膿性乳腺炎を起こすこともあります。
慢性乳腺炎には乳輪下膿瘍、肉芽腫性乳腺炎などがあります。 急性の乳腺炎がなかなか治らずに、慢性的な乳腺炎に移行する場合もあります。
うっ滞性乳腺炎
授乳中の女性によく見られる症状で、乳房の腫れ、赤み、熱感、痛みなどが挙げられます。母乳を出すために乳腺が過剰に働き、その結果、乳腺の管が詰まったり感染したりすることで起こります。
授乳中の場合は、軽度であればセルフケアで改善することもあります。赤ちゃんに飲んでもらう、搾乳や助産師の乳房マッサージを受ける、濡らしたタオルなどで冷やす、といったことも有用です。 特に、38度を超える発熱がある、乳頭から膿のような乳汁がでる、乳房全体が腫れて赤くなり、触れただけでも痛む、痛みで眠れない、といった症状がある場合は、病院を受診して下さい。 痛み止めの処方のほか、感染の予防目的に化膿止めを処方することがあります。
産後は体力が低下し免疫力も下がっています。何よりも、ご自身がしっかりと休養を取ることが重要ですので、水分を取り、休養・睡眠をとりましょう。
とはいえ、産後の大変な時期、ついつい、自分の体よりも赤ちゃんを優先してしまうかもしれません。一人で赤ちゃんの世話をしなければならず、なかなか休むこともできないかたもいるでしょう。
産後は慣れないことやわからないことだらけで不安な上、体が元に戻るまで時間もかかります。そんな時に頼れるのが「産後ケア」。つらいとき、大変なときに心身をサポートしてくれるサービスを利用して無理なく子育てを進めていきましょう。「産後ケア」に対し、助成を行っている自治体もあります。 世話をする方自身が心身ともに健康であることが、赤ちゃんや家族の幸せにつながります。 近隣の自治体の産後ケアのリンクを参考にしてください。
西宮市産後ケア事業|西宮市ホームページ (nishi.or.jp)
化膿性乳腺炎
うっ滞性乳腺炎が続くと、乳頭から入り込んだ細菌によって感染を起こし、化膿することがあります。皮膚の表面の常在菌である黄色ブドウ球菌などが原因となります。
化膿性乳腺炎の場合は高い熱が出ることも多く、悪寒・倦怠感も伴います。慢性化すると乳輪の下に膿がたまり、乳頭や乳輪から膿が出てくることもあります。
痛み止めや化膿止めの処方のほか、膿がたまる「膿瘍(のうよう)」が出来ている場合は、処置が必要となります。細い針で膿を吸引したり、切開をしたり、膿がたまらないようにチューブを入れることがあります。
乳輪下膿瘍
授乳中以外でも、妊娠出産の経験のない方でも 起こる乳腺炎の一つです。乳輪の下に膿がたまり、かたまり・しこり= 「膿瘍(のうよう)」 ができることを言います。
もともと乳頭が陥没している方に起こることが多く、 タバコ、肥満、糖尿病などもリスクになります。 乳管(母乳を運ぶ管)が閉塞し、細菌が感染することで起こります。
強い痛みや腫れ、赤み、発熱などの症状があり、膿を出す処置が必要になることもあります。 膿瘍が自然に潰れて、乳輪の近くから膿が出てくることもあります。
乳輪下膿瘍は膿が出てしまえば、症状が治まることが多いのですが、睡眠不足が続いたり疲れがたまっていると治りにくいことがあります。また、いったんは治っても再燃を繰り返すこともあり、形成外科で、原因となっている乳管と膿瘍の周囲の組織を合わせて切除し、陥没乳頭の形成術を行うことがあります。
肉下種性乳腺炎
原因はよく分かっておらず、自己免疫疾患が関連していると考えられています。妊娠可能な年齢の女性に起こり、典型的には出産歴がある女性で、卒乳して数年して発生することが多いと言われています。
乳房の硬いしこりとして触れて気づき、はじめは痛みや赤みがみられないこともあるので、乳がんとの鑑別が難しい場合があります。臨床所見やマンモグラフィ、超音波検査(エコー検査)、組織診(生検)を行うこともあります。
自然治癒することもありますが、難治性のこともありステロイドの内服を行うこともあります。細菌の感染を合併する場合は、切開を要することがあります。 数週間~数ヶ月間の治療を要することが多いのですが、1年程度で軽快してきます。当院でも治療を行っておりますので、お気軽にご相談ください。
最後に
乳腺炎は産後、母乳の分泌量が安定していない時期に起こりやすいため、授乳中のお母さんに起こりやすいトラブルです。慣れない赤ちゃんの育児に加えて、乳腺炎を起こしてしまうとつらく感じる方もいらっしゃるでしょう。産科や地域の助産師が行っている母乳元来で、授乳の仕方や体調管理などを教えてもらうのもお勧めです。
芦屋市近郊の方は、こちらがお勧めです→住岡母乳&育児相談所 ~兵庫県芦屋市の母乳&育児相談所 (sumioka8808.com)
母乳マッサージやセルフケアでも乳腺炎が改善しない場合や、しこりなど乳房に気になるところがある場合はぜひご相談ください。
また、上記のように出産や授乳と関連のない乳腺炎もあります。実際、当院には、10代のお子さんから50代の女性まで、乳腺炎で来院されています。
授乳中の女性も授乳経験のない女性もおかしいと感じたら、早めに受診するようにしましょう。症状が無くても定期的にセルフチェックや乳がん検診も受けるようにしましょう。