開業から5年。
たくさんの患者さんと出会い、支える中で、
「地域での私たちの役割とは何か?」と改めて考えています。
当院には、手術後の経過観察や、良性のしこりのフォローのために、さまざまな医療機関から患者さんが紹介されて来られます。
一枚の紹介状には、ただの診療情報以上のものが詰まっています。
「ここから先は、お願いします。」という、想いと信頼のバトンを託すかのように。
紹介先のクリニックで、患者さんが安心して次の一歩を踏み出せるように
その願いが行間から伝わってきます。
患者さんにとっては、これまでみてくれていた先生から離れて、地域のクリニックに行くように言われたら一抹の寂しさや不安を感じるかもしれません。
でも、大きな病院には、たくさんの患者さんを支えるという大きな役割があります。
限られたスタッフや設備を無理なく活用するためには、地域のクリニックが落ち着いた状態になった患者さんの受け皿となり、次のステップへつなげる仕組みがとても大切です。
当クリニックは、その「バトン」を確実に受け取り、生活や気持ちに寄り添いながら、次のステップへつなげていきたいと考えています。
病院とクリニックの地域連携には、さまざまな形があります。
たとえば、当院から治療のために病院へご紹介した患者さんが、治療中にも副作用の相談や気になる症状についてご相談に来てくださることもあります。
また、引っ越しなど家庭やお仕事の事情で医療機関を変える必要が出てきたときには、クリニックどうしで患者さんをご紹介し合うこともあります。
ご高齢になり、病院への通院が難しくなった方が、地域のクリニックでの継続的な診療を希望されることもありますし、逆に、当院での対応が難しい場合には、専門の先生へ速やかにご紹介することもあります。
こうした「行ったり来たり」も含めて、柔軟に患者さんの今の状態に一番合った医療を一緒に考えていく。
それが、本当の意味で安心できる医療なのではないかと感じています。
乳腺外科というのは、乳がんの診断・治療だけではなく、その後の経過観察、さらには更年期の症状や高齢期の体調の変化にも長く寄り添う診療科です。
だからこそ、「つなぐ」こと、そして「支え続ける」ことがとても大切。
「紹介」とは単に病院を変わることではなく、“信頼”を次の医療者に託すリレーだと私は考えています。
今まで診てきた医師が、患者さんと築いた時間や信頼関係を尊重し、そのバトンを受け取る。
紹介してくださった先生の想いをくみ取り、
紹介されて来られた患者さんには、「ここに来てよかった」と思っていただけるように
そんな気持ちで日々の診療に取り組んでいます。
乳がんは、治療後も長い人生が続く病気です。
ホルモン治療の継続、副作用、再発の不安、仕事や家庭との両立……
治療が終わっても、さまざまな悩みを抱える方がたくさんいらっしゃいます。
日本では毎年9万人以上が乳がんと診断され、5年生存率は90%を超えています全国には推定60万人以上の乳がん経験者がいるとされており、継続的な支えが求められています。
また、乳がんのサバイバーの40~60%は、治療後も関節痛や疲労感、不眠などの不調を感じているという報告もあります。
「予定通りの医療」だけではカバーできない部分がたくさんあるのです。
病院の検査では見えにくい、でも、患者さんの生活や心には確かに存在する「困りごと」=PRO(Patient-Reported Outcomes)に、しっかりと耳を傾ける姿勢が、質の高いケアにつながります。
乳がんの平均罹患年齢は約61歳。75歳以上の高齢患者も増加しており、今や60代・70代・80代の方にとって珍しくない病気です。
ひとり暮らしの不安、介護や将来のこと、家族との話し合いのきっかけがない……
そんなお悩みにも寄り添い、場合によっては、在宅医や地域のケアチームと連携しながら、「これからの暮らし」も含めた医療を一緒に考えています。
治療が一段落した今だからこそ、人生の後半をどう過ごしたいかを考える「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」も、これから当院が取り組んでいかなければならない大切なテーマのひとつです。
私たちは、患者さんにとっての「家、ホーム(Home)」でありたいと考えています。
再発時の相談、セカンドオピニオン的な関与、緩和医療への接続支援などでも、乳腺クリニックの存在意義は消えません。むしろ、専門的知見を持ちながら、地域や家庭と近い立場にある私たちだからこそ、患者の不安や価値観に寄り添える局面が多くあります。
「がん診療のホーム」としての立場を意識し、必要に応じて在宅医との連携や、家族・地域支援資源との接続も行いながら、患者の最終章まで見守る体制づくりを模索していきたいと思います。
治療が終わっても、不安や違和感がふと心に浮かぶことはあります。
そんなとき、「あのクリニックに聞いてみよう」と思い出していただける場所でありたい。
再発や体調の変化があったときも、「ここに来れば大丈夫」と思っていただけるように。
私たちは、「乳がんを診る」だけでなく、「乳がんの患者さんが地域で生きていくプロセスを支える」ことを目的としたクリニックです。
患者さんには「安心と納得の医療」を。
紹介元の先生方には「安心して任せられる連携先」を。
紹介してくださった先生、来院された患者さん、そして地域の医療機関。
そのすべての信頼をしっかりと受け止め、必要な医療を必要なタイミングで届けていく。
信頼をつなぎ、支え合う医療の在り方を、現場から丁寧に実践し続けていきたいと考えています。
ご自身のこと、ご家族のこと。
もし、少しでも気になることがあれば、いつでもご相談ください。
あなたの人生の物語のそばに、いつも私たちがいます。